中二病6



あれから先生への報告はちっとも進んでないけど、誰にも言えない甘い秘密のおかげで最近のオレはちょっとだけ機嫌がいい。平静を装ってるつもりだけど、その気分も母さんにはバレているみたいだ。


「どうしたの?最近、機嫌がいいみたいじゃない」
「まあね。母さんも具合良いみたいで良かった」
「また家に戻れるみたいなの。楽しみだわ」
「じゃあ今は無理しないでしっかり休まねえとな。家事はちゃんとオレとアルで分担してるから、安心して帰って来てよ」

病室はいつでも消毒用アルコールの匂いが漂っていて、白い壁と相俟ってオレの夢よりも現実感が薄い。今日は良く晴れてて風も気持ちいいから、窓を少しだけ開けた。体を起こしていつものように笑う母さんの隣に椅子を置いて、オレも土産を並べる。ベリーの入った薄いピンク色のメレンゲに、口溶けの良いプリン。近所の洋菓子屋の菓子は見た目にも綺麗で、これで少し気分が晴れてくれたらと思う。
母さんは体が弱いので、オレが小さい頃から入退院を繰り返している。最近はまた入院してるから会うのは一週間ぶりだ。
夢の話はしていない。母さんが夢の中では死んでるなんて縁起でもねえ。だからアルにも言えない。勿論オヤジにも。オヤジなんて殆ど帰って来ないから、こっちから話しかける用もねえんだけどな。

「この間、アルが来てくれた時に煮物を持って来てくれたの。美味しかったわ」
「オレのカレーも美味いんだから。帰ってきたら作ってやるよ」
「ありがとう。お父さんはまた忙しいみたいだから、みんなでケンカしないで仲良くね」
「はーい」

オレとアルはケンカしても後に残らない。問題はオレとオヤジだ。一方的に嫌ってるだけなんだけど、今はまだ和解は難しい。大学の教授ってそんなに忙しいものなのか?研究者なんて机に向かってるイメージしか無いんだけど。昔から家にほとんど帰って来ねえとか、そんな時に母さんが倒れた事とか。オヤジだけ名前を分けてる事とか。あいつには解せない事が多すぎる。
でも、そんなオヤジの事を母さんは大好きなんだ。オレとアルと同じくらいに。それが強く伝わってくるから目の前では出来るだけ揉めないように頑張っている。病人に心労はかけたくないもんな。

「ねえ。来週、父母面談があるんでしょう?ウインリィちゃんから聞いたわよ」

黙っていればバレないと思い頑張って隠蔽してきたのに、あと一週間が乗り越えられなかった。じわりと額に浮かぶ汗。目をそらして黙るオレを母さんはじっと見ている。

「母さんは行けないけどお父さんが行くから、何かあればちゃんと話をしておくのよ」
「あいつは来なくていいよ!別にオレは何か問題起こしてる訳じゃねねえし、成績だって良いし」
「そういう事だけじゃないでしょ。お父さんがね、是非とも行きたいって。担任の先生に会いたいんですって」
「来なくていいのに。何考えてんだよあのクソオヤジ…」
「エドワード!」
「うう…」

オヤジは何と言うか、人とかなりズレた所がある。他愛ない日常会話とか、そういった事が出来てない。話してると話題が噛み合わなくて、ほんとイライラする。
ずっとほっといた子供の担任と今更会って何がしたいんだ。また『何となく』とか『暇だったから』とか、そんな興味で動いてるだけだと思うけど。その主観的で得体が知れない感じもちょっと嫌なんだよな。

「増田先生にも宜しくお伝えしてね」
「…はーい」
「面倒見の良い先生みたいね。ウィンリィちゃんにエドの事聞いてたみたいよ」
「なっなにそれ!オレは知らねえぞ!」
「学年始まった時に、エドがずっと一人でいるから、心配してたみたい」
「母さんはウィンリィが何言ってたか聞いた?」
「そこまではわからないけど」
「そっか」


病院からの帰り道、ニヤニヤが止まらなくて大変だった。
また知らない事があった。オレが相談する前からそんな事聞いてたなんて先生はどんだけオレの事好きなんだよ!、なーんてな。いやいや、実は生徒として気にしてるうちに禁断の愛が芽生えてたりして。なーんて。先生に好きな人が居るって話は忘れちゃいないよ。思い出す度に少しだけ胸が痛む。でもまあ、こうやって勝手に浮かれたり沈んだりしてるくらいはいいよな。オカズにしてる件は…それこそバレなきゃいいだろ。オレが変態ってだけだから。
くだらねえ妄想は楽しいが、大きな問題も現れた。父母面接だ。あのコミュ力0のオヤジのせいで先生がオレから遠く離れて行かないように釘をめった差しにしておかねばならない。今度はいつ帰ってくるんだろう、こんな事になるとは思ってもいなかったから聞いておけば良かった。先生にも事前に言っておこう。オレのオヤジはちょっと変わってて、人の話をちゃんと聞きません。変なタイミングで違う話に切り替わったりしますが、悪気はないのでどうか頑張って下さいって。
先生に迷惑かけちまうのが申し訳ない。ジュースぐらい持って先に詫びに行こうかな、早速明日にでも。そんでちょっと話して戻ろう。今のオレに長居は危険だ。核心にはふれない程度の良い口実ができた。変ににやけないように話す練習でもしておこうっと。



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あきゅろす。
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