中二病5



温かくて柔らかくて、眠気の隙間に甘い刺激が詰まってる。今の状態を例えるならそんな感じ。

誰だって温かな布団の中で微睡む素晴らしさは知っていると思う。今更オレが説明するまでもないだろう、あれは本当に本当にきもちいい。
その気持ち良さに身を任せていると意識がまた眠りの谷にゆっくり沈むけど、甘い微かな快感にふわりと引き戻される。でも起きない。その覚めそうで覚めないギリギリの浮遊感に踊らされる。

「…エドワード……」

低くて優しい声がオレの名前を呼ぶ。こめかみや頬に、ちゅって何度も押し付けられるのはきっと唇なんだと思う。漏れる息に相手との距離が近いってわかるんだ。
残念ながらまだオレにはキスもセックスも経験が無い。相手が居なけりゃ仕方ない事なのであまり突っ込んで聞いて欲しくない。高校一年生の分際で既に何かしらを経験してるやつは、中学の時に部活をさぼり気味だったとかマセガキだったとか、きっとロクな奴じゃないんだから。そう思って自分を納得している。一応言っとくけど、モテなかった訳じゃねえんだぞ本当に。

そんなオレでもわかるくらいの明らかな性行為。肌に這う唇は首筋を舐めたり、耳を柔く噛んだり。くすぐったい、でも気持ちいい。甘い刺激に腰が重くなる。いや、もう勃起してるかもしれない。
でもいいんだ。これ、多分夢だからさ。意識ある夢は明晰夢って言うんだよ、夢日記とか調べてる時に知った言葉だ。現実じゃないから罪悪感も無く相手を求められる。相手が誰か知らなくても関係ない。とにかく気持ちがいいから先に進みたい。

手のひらがオレのおでこを撫で前髪をかき上げて、額にちゅっとキスを落とす。手、大きいなあ。あったかいなあ。

あれ?

何か自分の中で引っかかった。声といい重さといい、触れる手の大きさといい…。オレに触ってんのは男の人?そんで大人?。でも嫌悪感は無い。むしろ当たり前という気持ちが大きくて、安心感さえある。
目尻に落とされたキスに誘われるように瞼を開けた。ぼやける視界に広がる肌色と黒い髪。
ようやく視点が定まって、驚きに目を逸らせなくなる。

「エドワード」

再び名前を呼ぶその声をオレは知っている。微笑んでこっちを優しく見つめる男、それは増田先生だった。



「ふんばあああああああ!」



びっくりして飛び起きたら自分の部屋だった。カーテンの隙間から明るい朝の光が漏れてて、朝だってすぐにわかった。

「何だよ兄さんどうしたんだよ」
「ぶああああああああ!」

いきなり開いたドアからアルが顔を出して、気まずいオレはまた声を上げた。

「そろそろ出ないと遅刻するよ。……でもパンツは洗ってけよ」
「うるせええええええ!」

何かを察した弟は、的確な一言を告げて出て行った。
悔しいが遠からず近からず。そっと股間を探ると、出てはいないがしっかりと勃起していた。あー、やっぱり。あれだけ気持ち良ければ勃ってても出ててもおかしくない。出てないだけ良かった。良かったっていうか助かった。
時計を見ると、弟が言った通りそろそろ出発しないと遅刻する時間だ。余韻を楽しんで抜いてる時間は無い。遅刻しないようにどうにか収めて出発するか、遅刻してでも楽しんで抜いていくか。迷っている間に無情に時間は過ぎて行く。
…結局、急いで抜いてちょっと遅刻した。決断の悪さに未練が残る。不完全燃焼な感じとか、その、オカズの選択とか、な。



先生を捕まえようと躍起になっていた所に、こんなの刺激が強すぎる。オレが先生を求めすぎたせいなのか?いや関係無いはずだ。だってあの夢は、いつもの旅を続けるオレの物語の一部で間違いないんだから。
その日から授業中の居眠りは減っていった。減ったというか居眠り出来なくなった。
夢の続きを見たくて寝ちまってた訳だが、万が一学校でこんな夢を見てうっかり勃起しようものなら、席から立てなくなるどころかバレたら学校に来れなくなる。

そんで思う所ある日に限って現国の授業があるんだよな。授業中、増田先生から目が離せない。見てらんないけど見ていたい。恥ずかしいけど止めらんない。そんなドキドキにずっと落ち着かない。
先生はずっと眼鏡をかけているので、外した顔ってあんまり見た事無い。でも夢の中で見ちまった。ちょっと童顔なんだよね先生は。そんで、思ってたよりも逞しい体。肩も腕も、胸元も。しっかりと筋肉がわかるくらいに鍛えられていた。夢の中だと軍人だから当然なのかな。今の先生はどうなんだろう?もうちょっと細いかな。いやいや着痩せするタイプなのかもしれないな。あの薄い水色のシャツはどんな体を隠しているんだろうか…なんて、エロビデオの紹介文みたいな言葉が浮かんでにやけそうになる。

(…!)

黒板に例文を書いていた先生が振り向いて、背中を凝視していたオレは目が合った。やばいやばい、にやけてたとこ見られたかな。教科書に目を落として『そんな事ないですよ』を装う。
授業が終わって帰りの会も終わって、なんとか一日切り抜けた。夢が気になっていた毎日よりも、先生を追いかけ回していた毎日よりも、今日の方が緊張感があって気が抜けなかった感じがする。

「エルリック。最近、きちんと授業を受けているようだな」
「あ、ああ、はい」
「あれからまだ夢は見ているのか?」
「あ、まあ。…あの、今日は母さんの見舞いに病院行かないとなんないんで、また…」
「そうか。気をつけて行きなさい」

増田先生が声をかけてくれたと言うのに、そそくさとその場を離れる。夢の中のオレらがあんな関係だったなんて知ったら、意識すんなって方が無理なんだ。
それにしてもすげえな、男同士でもオレの片思いは実ったんだなー。どんな風に口説いたんだろう。脅して付き合わせてるって感じはしなかった。まさか、あんなにイチャイチャで甘い関係だなんて。実際に彼女作って経験する前にすごい事知っちゃったみたいだ。

あの夢の臨場感はオレに大きな衝撃を与えた。甘くて、気持ち良くて、すごく興奮した。夢を見て遅刻した日も、一番刺激の強い妄想を選んだところ脳内に再生されたのは夢の続きだった。どんな風に触るんだろうとか、もっとエロい事されんのかなとか。局部に直接触れないギリギリ感もオレを煽った。先生をオカズに抜いてるなんて、口が裂けても言えない。
裂けたら困る口を閉じて、小さな罪悪感に背を丸めると、オレはすっかり大人しくなる。しばらくは大人しくしてようと思います。


2012/5/19

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