031・七段目

最近のロイさんは忙しいらしい。連休中はデートに誘うチャンスだと考えていたオレは甘かった。ロイさんは殆ど休みが無いという(休めなくなった。という言い方をしていた)。
あれほど楽しみにしていたフリースクープも、どうしても仕事が休めないので一緒に行けないと頭が地面に着く勢いで謝られた。

そんな感じでまた普通の毎日。頑張れロイさん。負けるなロイさん。オレも受験勉強とテスト頑張るから、ロイさんもくじけるな。そんな気持ちを控え目なメールに託して、一方的に送り続けた。
勿論、頑張れだなんて直接的な言葉は書かない。お疲れ様とかお休みとか、日々の挨拶を短めに。最後に返信不要だと一言付け加えた。オレってなんて懐の広い男だろう。我ながら惚れ惚れするぜ。
でも、自分から返信不要って書いても、返事無いと寂しいのが恋愛フィルターだ。ロイさんの声が聞きたい、半径1メートル以内に入りたい。欲求はグツグツと沸いている。


今夜もロイさんにお休みメールを送る健気なオレ。女々しいとか言うなよ、こっちは繋がりが途絶えないように必死なんだ。

「…オレは、もうちょっとしたら…寝るけど、先に、お休みなさい…っと」

日本語おかしいけどいいや。なんとなく伝わればオッケーだから。毎日書いてると、バリエーションがなくなってくるのは仕方無いし。
もう二週間も顔を見てねえ。そろそろロイさんのフェロモンを補給しないと死んでしまう。フェロモンて補給できるもんなのかはわからないけど。
ごろりと寝転がった隣で、何か着信してるオレの携帯。瞬時に取り上げてメールを確認する。

「きた…っ!!!!!」

それは久しぶりのメール。と言ってもメールは四日前にも一言来てんだけど、素直に嬉しい。テンションが一気にあがる。

『返事が出来なくてすまない。
もし明日、遅い時間でも良ければ
またアイスを食べに行かないか?
エドワードの都合で決めるよ』

ロイさんは無茶をしないので、遅いって時でも大体七時半くらい。そんなの図書館で勉強してたら余裕で潰せる時間だ。もっと無茶して二人で夜を越えたりとかマンガみたいな展開もお待ちしてますが。なかなかそうはならない。
急いで返信して携帯を閉じる。また直ぐに着信。開けたらロイさんからの了解メール。
ありがとう、とか返ってきた。そんなに他人行儀でなくていいのにな。オレはあんたに会えるだけで幸せなんだから。


次の日は朝から機嫌が良かった。髪も整えシャツもきちんと着たり。いつもより意識はクリアで青い空は一段と澄んで見えた。
放課後にウインリィから来た「帰る前になんか食べようメール」も断って、時間まではまず図書館で真面目に勉強。図書館が七時に閉まった後は、待ち合わせのいつもの店へ。あ、結局その前にちょっと食べたんだった。成長期だから腹がもたなくてって言い訳で。でもウインリィには内緒にしないと。


今日はアイスクリーム屋の前でロイさんを待つ。あんたのためならいつまでも待つぞ。オレは本腰据えたらじっくり向き合うタイプなんだからな。
夜の駅前は家路につく人たちが足早に行き交って、オレはその中に一人の影だけを探す。あの人を好きだと思ってから、オレの毎日は変わってしまった。他人に、しかも男でおっさんを相手にこんなに献身的になれるなんて。献身的って言っても沢山の下心が後ろに控えてるから、中身はあまり優しくはないんだ。
例えば、手を繋ぎたい。ぎゅっとしてやりたい。オレのこともっと好きになって欲しい。一緒にいたい。一緒に笑いたい。こんな気持ちは、どう考えても恋だとしか言いようがない。

流れる人波の中に何かを感じた。目はまだ捉えてないけど、その感覚に背筋が伸びる。
ロイさんが疲れた顔をして、足早にこちらへ向かってくる。ドキドキもするんだけど、大丈夫かなちょっと心配だな。
信号を越えればすぐの距離。なのに脚は勝手に動いて、オレはいつの間にか駆けだしていた。


ロイさんは男前だが、ちょっと疲れてやつれた姿すらも男前とは驚いた。今のオレにはフィルターがかかってんだと自覚してるけど、久しぶりに見るときらきらしてる気がする。もちろん気のせいなんだけど。

とりあえず、アイスを頼んでいつもの席へ。この店の良いところは、いつもほどほどに空いてる事とお姉さんが親切で優しいところ。もちろん、アイスが美味しいのは当然だ。

「すまないね、なかなかメールもままならなくて」
「仕方ねえよ。忙しくて疲れてる時は、早く寝るのが一番だ」
「…あー、久しぶりに甘さが染みる」
「食べてなかったのか?、アイス」
「君と食べようと思ってたから」
「どうせ、一人で食べるのが恥ずかしいんだろ?」
「まあ、いいじゃないか」

軽く返しながらも、心臓はばくばくしている。口説かれたああああ!。ロイさんに直球で口説かれましたああああ!!。心の中では力いっぱいに叫んでいるが、顔には出さないよう堪える。何て返すのが良かったんだろう。はいもちろんオレもです結婚してください!とだろうか。急すぎないだろうか。
ロイさんは目の下を薄く隈で濁しながら、幸せそうにアイスを食べている。本日はチョコレートファッジシュープリームとキャラメルリボンをカップで。最近はオレもカップなんだ。ロイさんに合わせてゆっくり食べて長い時間一緒に居たいから。
それに、ピンクのスプーンには素晴らしい使い方もあるしな。

「ハワイアンクランチも美味いよ」

ココナッツのアイスを掬い、スプーンを口元へと差し出す。ロイさんはそれをためらわずパクリと口に含む。

「いいな。次はこれにしよう」
「こっちはコットンキャンディー。甘いよ。ほら」
「綿飴だからな。…本当だ。甘い」

雛に餌付けをするように、ロイさんに食べさせる。最初は戸惑ったりスプーンを受け取ったりしていたが、今ではすっかり馴れてくれてる。ああ、何という至福のひととき。恋人みたいにイチャイチャで、しかも間接キスだろこれは(そうだとオレは思っている)。
ハワイアンクランチとコットンキャンディーという取り合わせは、ロイさんがまだ食べていないこと(味見含む)を見越しての選択。どうだこれくらいの計算はできるんだぞ。

「もう一口欲しい」
「はいよ」

ハワイアンクランチをお気に召したロイさんがおねだりするので、自分で掬う前にオレのスプーンで差し出す。再びパクリ。スプーンをくわえる前の、伏し目がちに口を薄く開いてアイスを追う一瞬が堪らなく好きだ。ロイさんはあんな顔してキスすんのかな。オレとはしてくれねえかなあ。

「会社の近くにあればいいのにな、サーティワン」
「店が無い上に、次に近い所は席が無いからな。ここがいいよ君もいるし」
「オレはいつでも来るよ。あんたが呼んでくれればいつでもどこでも」

やっぱり口説かれてるよオレ!。どうしたんだろオレへの愛に目覚めたのかな。もしくは、疲れてるからガードが緩くなってるとか。弱らせてから叩くのが狩りの基本って言うけど、今こそ叩くべきなのかな。
勇気を出して手を伸ばす。ロイさんの頭を、いいこいいこと撫でてみる。

「無理してもいいけど、倒れんなよ」
「ありがとう。…甘やかされてしまったね」

よし、嫌がられなかった!。初めて髪の毛触った!。さすがにちょっと照れたらしく、またアイスに集中している。そんなロイさんに顔がにやけそうになる。

「夕飯はどうしようか。また時間があるなら一緒に食べてくれるか?」
「その『食べてくれる』とかよせよ。他人行儀でいやだ」
「すまない。ではどこへ行こう、何が食べたい?」

飯より何よりアイスが先。お腹満たすより、アイス屋でロイさんといちゃついて心を満たすのが先。今日は充分に潤ったから、たくさん食うぞ。
店を出るときに、いつものお姉さんが何かいいたげな顔してたから、また来ます!と明るい挨拶を残してきた。わかってるよ店内でいちゃつくなって言いたいんだろ?。でもここのお店は居心地が良いのでまた来ます。またロイさんといちゃつきます。そんなわけでホモですが宜しくお願いします。


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