五匹目

 いくら大佐と言えども、ずっと室内に閉じ込めておくと気が滅入るらしい。外はめっきり寒くなって来たけど、その分空気は澄んで明るい。散歩日和の晴天だ。
「アル!、大佐!、今日は散歩行くぞ」
 大佐には長いコートとマフラーと帽子(と靴下と靴)を着せて、風邪を引かないように準備万端。俺もマフラーを巻く。アルにも大佐とお揃いのマフラーを巻く。
「ほら、手、出して」
 左手を差し出すと、猫は当たり前のように繋ぐ。大佐を外に連れ出す時は、必ず手を繋がなければならない。小鳥や小動物に反応して飛び出したり、大きな音に驚いて走り出したりしないための措置だ。
 最初は恥ずかしかったけど、老人介護か子供のお守りだと割り切れば、それ程でもない。外から見たら俺が繋がれてる感でいっぱいだが、ここはぐっと我慢だ。
 でも良かった。外で首輪を着けて引き歩くような事態は免れた。だってそんな絵面だけ見たら、少年愛好者で拘束フェチで公開羞恥プレイで猫耳オプションのドMだ。ロイ・マスタング大佐がそういう性癖かと思われてしまうのは、今後に宜しくないと思う。俺もその一端に荷担したくはない。

 近所の公園までやって来た。大佐もアルもお気に入りの場所だ。
 広い園内の少し奥、茂みの辺りまでやって来ると、繋ぐ大佐の手に力が入る。多分、コートの中でしっぽも動いているはずだ。
「兄さん、ちょっと遊んできていい?大佐は僕が見てるから」
「ああ、いいよ。大佐も行っといで」
 手を離すと、大佐はアルと一緒に歩いていく。すると待っていたかのように、すぐさま茂みから出てくる数匹のノラネコ。
 公園の猫とアルは仲良しだ。今はそこに大佐が加わる。アルの上にも大佐の膝にも猫が乗り上げ、周りには何匹もスリ寄り大変な人気だ。
 一番近いベンチに座って、俺はその光景を眺める。俺が近寄ると逃げるので、これが精一杯の距離だ。
 観察していて気付いた事がある。猫も、人が「整っている」と感じる容姿の奴がモテる。骨格は大きめ、毛並みは良く、顔立ちが美しければ、その人気は圧倒的だ。
 それは、猫化した大佐にも言えるようだ。ここに来ると大佐は猫まみれになる。今は猫だから、メス猫にモテたら楽しいのかな。猫に興味はあるみたいだけど、異性として捉えているかは不明。表情が乏しいから真意ははかりかねる。
「…猫になってもモテんのかよ。羨ましいこって」
 遠くからぼそりとごちる。すると、まるで聞こえたみたいに大佐が立ち上がって、ベンチまで戻って俺の隣に座った。
「いいのか?。まだ、お前のファンがたくさん待ってるぞ?」
大佐は少し笑って、俺の手を両手でしっかりにぎる。やきもちを焼くなと言われてる気がして、恥ずかしくなる。
「や、やきもち、とか、焼いてねーよ?」
 べったり真隣に座って手を握る姿は、昼間からいちゃつくカップルくらいしか思い当たらない。いやいや、大佐は純粋に俺に気を遣ってるんだよ、多分。耳もしっぽも隠してて見えないから、何考えてるか俺に知る術はないけど。

 帰り道、再び大佐と手を繋ぐ。大佐の反対側はアルが手を繋いで、広い公園の道を三人並んで歩く。
 そっと、指を組むように繋いでみた。大佐がそのままきゅっと握り返してくる。そんな所に小さな優越感を感じてる俺は随分女々しいと思う。
 …でも、ちょっと大回りして、夕飯の材料を買って帰ろうかな。それくらいは許されていいとも思う。




[*前へ][次へ#]

5/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!