日記小話
季節風習における地方による特色の以下略

※すみません、頂いたコメントが楽しくてつい書いてみた(笑)。


「羊、買わなきゃな」

エドワードが呟いた言葉に、大した意味はないと思っていた。しかし、2月に入ってからその場で追及しなかった自分に悔やむ事となった。


「大佐!、なんで羊買わねえんだよ!!」
「…は?」
「肉屋に行くって言ってただろ」
「だから、鶏を買って来たろう?」
「鶏なんてついでの話じゃんか。なんでメインがねえんだ」

買い物から帰ったら、羊肉を買って来なかった事をえらく怒られた。出かける前に、ついでに何か買うかとエドワードに聞いた時は、鶏肉としか言われなかったのに。
なんだかわからないまま再びコートを着込み、寒い道を肉屋へ戻る。わざわざ往復して美味そうなラムチョップを買って来たというのに、目の前で膝をつかれた。絞り出された一言が、胸に刺さって痛い。

「使えねえ…」

何が悪かったのか教えて欲しい。まるで、私一人が何も出来ない人間だと言われているようで傷付くじゃないか。

 * * *

「うちの地方はさ、冬の季節の境目の祭りは、羊を食うんだよ」
「初めて聞いたよ、そんな風習」

知らない風習を前提に話をされてもこちらは困る。買ってきたラムチョップは、今夜の夕飯に決定。塩・胡椒・刻んだハーブとパン粉をまぶして焼くことになった。エドワードが手際良く料理する姿を、隣で暖かなコーヒーを片手に見守る。

「各家庭で羊の丸焼きを用意して、家族全員でかぶりつく。その年の恵方を向いて、無言で食べ続けないと幸せはやって来ない。だからみんな真剣に食えるだけ食う」
「……へえ…」

私も君ほどの田舎育ちではないが、イーストでは聞いたことがないぞ。しかし、エドワードは平然と話しているし、突飛な内容だが嘘ではなさそうだ。うっかり茶化す事が出来ない。

「大佐のところは豆はどうすんの?」
「ああ、豆はまくよ。煎り豆を巻いて厄払いと豊穣を願う」
「うちちょっと違う。生豆を使う」
「それじゃあ春に芽が生えないか?」
「生えたら食えばいいから、一石二鳥」

熱したフライパンに肉を乗せると、油にはぜる音が空腹を誘う。

「選ばれた人が赤い木彫りの面と藁を体に巻いて、各家庭を襲撃するんだ。追い出すには、豆を力一杯ぶつけるのがルール」
「荒々しいな。それは本当に祭りなのか?」
「だって、祭りじゃなきゃやらねえよ。そんなコスプレ」
「……コスプレって…」
「うちはアルと俺が豆まく係でさ。人手がないし子供だし、豆を沢山まけねえじゃん?だから豆に小石混ぜたら怒られた。ちゃんと豆に見えるように錬成したのに」
「たまったもんじゃないな。選ばれた人は良いことが無いじゃないか」
「襲撃役は、家の中の物を強奪できたら貰えるルールなんだ。だからタイマンで乗り込む。でも殆ど無事には帰れない。ウィンリィは高速で豆を飛ばすマシンガンを開発してたけど、あれは洒落にならなかった。一階のガラス割った」
「…命がけだな。何を突っ込んで良いかわからなくなってきたよ」
「あ、そうそう、子供はその時に結婚相手決めるんだ。大きくなったら結婚する」
「えっ」

エドワードが当たり前のように話す言葉に動揺してしまう。

「それは嘘。大佐、食器並べてよ。ちょっと早いけど夕飯食っちまおう」
「エドワード、私以外に君を狙う人間が」
「そんな物好き、あんたぐらいしかいないから安心しろ。ワイン開けるか?」
「あけるが…本当だな?嘘ではないな?」
「嘘ついて俺に利益がねえよ」

おろおろしているうちに、並べられる暖かな夕飯。エドワードが楽しそうにしているから、どこまでが本当か確認するのも忘れて、幸せな食卓を堪能した。



翌日、職場で話して中尉に馬鹿にされた事は、恥ずかしながら付け加えておこう。




2010/8/31移動
2010/2/6

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あきゅろす。
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