祐悠←要






あいつが悠太を呼ぶ声は異常だ。
何が異常かって?

たった一回、悠太を呼ぶだけなのに
その「悠太」に込められたあいつの色んな感情が、だ。

色恋沙汰に疎い俺にすらわかるくらい。

それくらいあいつの悠太に対する想いが、
あいつの喉から発せられる名前に詰め込まれている。


「ゆーうたぁー」


ほらまた。
あいつの詳しい心内事情なんて知ったことじゃないが、
これは春でもわかるレベルだ。


「なにかな、祐希くん」
「ゆーた」
「・・・なぁに」


なんなんだまったく。
悠太はもともとあいつには甘い。
でもこう、なんとも言えない甘ったるい声で名前を呼ばれると
殊更甘くなるんじゃないのか。

もう少し兄として祐希に厳しくしてもいいと
俺は思う。


「ゆうた。」
「・・・・・・・」
「ゆーたー」
「・・・も、だからなぁにって」


おいおい困ってんじゃないかよ悠太の奴。

(・・・あ)

わざとかこいつ。
故意に悠太を困らせてやがる、悪趣味め。


「ゆうた。ゆうた、ゆうたー」
「祐希、いい加減にしないと怒るよ」
「やだ」
「じゃあ呼んでばかりいないで
   言いたいことあるならいいなよ」
「んー・・・」


ダメだあいつ。
完全に悠太に甘えきってやがる。
春だったら微笑ましいって言葉で片付けるんだろうが、
俺はイライラするぞ。

(げっ)

目があった。

・・・!!
あいつ・・・


「祐希?どこ見て・・・ かなめ?」
「おー・・・」
「要、もしかしなくても
   俺と祐希のやりとりずっと見てた・・・?」
「あーまぁな」
「・・・・・・」
「あー悠太ってば顔赤い!
   かなめセクハラしちゃダメっ」
「してねぇわ!!」
「ふぅん?」
「こら祐希」


あーあ。
またそうやって祐希をかばう。

だからいつまでたっても兄離れ、
いや悠太離れができないんだ。

本人にそれをする気が毛頭ない時点で
終わってんだろうが。

しっかしまぁそんな目で俺を見なくても
俺はお前から悠太を奪う気なんてないっつの。

俺は今のこのポジションが気に入ってるしな。

祐希に見せて俺に見せない表情があるように、
俺に見せて祐希に見せない表情だってあるんだ。
だから俺は今のままで十分。

(今は、な)

第一俺らがなんやかんやしたところで
最終的に決めるのは悠太自身だしな。


「まぁがんばりますか」
「・・・!」
「? 要なんか言った?」
「いーや、別に何も」
「そ?」


(そうそう)
(お前はそうやって)

余裕をこいてればいいさ。
偶に焦るお前を見るのも
俺のひとつの楽しみだしな。

ってことで地道に攻めてくんで?

(覚悟してな、祐希)





End.







[執筆]120303
[掲載]120401


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