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倒錯の果て-4

爽やかな筈の朝の晴天は、何に使われているとも知れない建物群の高い壁に阻まれてほとんど見えない。
常に薬や血の臭いがうっすら立ち込めているこの地区は、平和にさえずる野鳥など近寄りもしない。
使われなくなった鉄製の生ゴミ入れが、腐った雨水と錆びた鉄の臭いをかすかに散布していた。

人気のない路地で、観念した俺はおもむろに相手に覆い被さる。
応じた俺に遊城さんは薄い唇で弧を描いて、艶かしい手付きで背中に腕を回してきた。
ボタン2つが開けられた黒いワイシャツから覗く白い肌に軽いリップ音をたてながら口づけて、それと同時に3番目のボタンに手を掛ける。
ボタンを外すごとに唇を降ろしていって、慣れた手付きで3、4、5、と全て外した。
遊城さんは楽しそうに小さく笑いながら、いたずらするように俺の背から脇腹にかけてを妖しくなぞった。
「ヨハン」
「…なんです、っ」
名前を呼ばれたから応えたら、すっと唇が近づいてきてキスをされる。
若干の批難を帯びた目で遊城さんを見ながら、間髪入れず侵入してきた舌を招き入れて自分のものと絡ませた。
遊城さんはとてつもなくキスが上手い。
柔らかく唇を食みながら、色を含んだ動きで舌が口腔をまさぐる。
朝っぱらでどうにも乗り気でなかった俺も、彼のいつもの舌遣いに段々と酔わされてきた。
「っふ、」
艶っぽい吐息を漏らして遊城さんが離れる。
息継ぎにも余裕がある彼と比べて、俺の息は乱れ始めていた。
「さっきの、何ですか?」
中断された会話を続けながら彼のベルトに手を掛ける。
しかしその手はしっとりとした指先にやんわりと止められてしまった。
「ヨハン、ネコやって。俺今日グチャグチャにしたい」
「ね、ネコって…」
「下だよ下。俺に抱かれろ」
急な宣告に先程まであがっていた呼吸が止まる。
「ちょ、嫌ですって」
「嫌な事あったって言ったろ?大人しく喘げ」
あわてて拒否する俺を、遊城さんは至極当然のように却下した。
聞いてない、そんなの聞いてない。
「もしかしなくても処女?
だいじょーぶだよ、俺どっちもヤり慣れてるし」
優しくしてやるから、とまた例の邪気のなさそうな笑みで強引に肩を掴まれ、あっけなく体勢も逆に覆い被されてしまう。
あ、俺まじでヤられる。
(嫌・だあ!)
遊城さんに付き合うのは仕方ないと諦めていたし挿れるだけならまあいいかと思っていたが、挿れられるとなったら話は別だ。
散々無節操にやり散らかしながらも何気にしっかりと守っていたこの貞操を、いきなり差し出せと言われても無理なのだ。
あわあわと焦りまくる俺に遊城さんは、ちゅっとフレンチキスをしてこの上なく妖艶に微笑んだ。
うわやばい、流される。
「す、すいませんっ!!」
咄嗟に俺はわずかに残された理性をもってして自分を叱咤し、自らの舌をきつく噛んで欲を律した。
何かしら惑わされる前にと一目散に身を翻し、長い長い細やかな路地を疾走した。

「…ちぇ。残念」

追われることは無いと分かりながらも、どうしてか思い切り全力で学舎まで走り抜いたのだった。



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あきゅろす。
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