トリガーは紅い麻薬C ―――――― すぐ終わるから、と十代は自宅の中に消えて行った。 そろそろと吹く木枯らしが頬に冷たい。 (何の傷だろ…) ヨハンは待ちながら、十代の手の傷に思考をめぐらせる。 常の十代なら捨て猫に引っ掛かれでもしたのかと思うだろう。が、ヨハンは数週間前の彼の青黒いアザを忘れていなかった。 (俺の知らないところでまた、喧嘩?) 確かにこの辺りにはタチの悪い輩も少なからずいる。 十代の性格から、絡まれて挑発にのるのも想像に難くない。 ただ、登下校も学校も休日もずっと一緒にいる身としては、喧嘩の気配に気付けないのは心外であった。 何かがふにおちなかった。 「……遅い」 そうこう考えながら十代を待って15分強。 ざっくばらんな十代のこと、手間取らなければもう帰ってきていいはずだ。 何となく不安を覚えて門前から玄関扉まで移動してみる。 あと5分待ったら呼び鈴を鳴らそう、そう思った 時だった。 「〜ッ」 ヨハンの耳に怒鳴り声が入ってきた。 何を言っているかは聞き取れないが、十代の家の中から聞こえる。 「〜、〜〜!」 ただ事ではない、断続的でしかも激しい怒声だ。 (十代!?) ヨハンはとっさに鍵の掛かっていない玄関扉を開け放った。 [*前へ][次へ#] |