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シュガーヴォイスガール


「はああああ!?」


腹の底からどころか、もはや細胞レベルから馬鹿にしたような声が響いた。


「ついに精神でも病んだのかこの陰毛頭」

「その呼び方やめてもらっていいですかザップさん」

「妄想のお友達の前だからってかっこつけてんのか?あぁ?」

「あーもう!妄想じゃなくてちゃんといますし!ってかかっこつけてなくても普通に嫌なんで!」


繰り広げられる言葉の応酬。目を白黒させる私の前で、レオナルドと名乗った人と、今しがた外から戻ったらしい褐色の肌を持つ男の人が言い争っている。

レオナルドさんが取り成してくれたおかげで、私は今何事もなくソファに座っていられるわけだけれど。ここがどういう場所で、この人達がどういう人達なのかは分からないままだ。たぶん、それは知るべきじゃない。
侵入者。どういう場所でそれが使われるのかぐらい私にだってわかる。


「ってもよぉ、お前にしか見えてねえんだろ?しかも何するわけでもねーってんなら、んなのいねーのと変わんねぇよ」


ザップ、と呼ばれた男の人が言ったそれは、本当に否定のしようもなくその通りで、私自身、自分が確かに存在すると言いきるだけの自信はない。


「どう思うクラウス?」

「む…」


スーツの怖い人と、なんだか物凄く身体の大きな人。
偉い人なのか、二人とも遠巻きにこちらを見ている。
何か分かったかと投げられた問いに、レオナルドさんがちらりとこちらを見て首を振った。


「駄目です。名前も住所も、個人に繋がりそうなものは何も」

「…まいったな。どのセキュリティにも引っかからずにここへ入り込めたのは、彼女がゴーストで、しかもどこから来たかも分からない迷子だからだっていうのかい?」


ゴーストだと言われればそうかなとも思うけれど、実感があるかと言われれば微妙だ。
ゴースト。何か出来るんだろうか。よく映画とかで観るみたいに人に取り憑いたりとか、壁を擦り抜けたり。でも今ソファには座れているし…なんて考えていた時、頭の上に影が落ちた。
上げた顔を、ずずいとしかめっ面をしたザップさんが覗き込んでくる。

……近い…

間近というにもまだ近いその距離に、思わず身を引く。
ものすごく見られている。正確には視線が私を通り抜けていくので、見られてはいないのだけれど。


「見えねーぞ」

「そこにいますよ、目の前です。怯えてるんであんまり近づかないであげて下さい」

「あぁ?誰が誰に怯えてるって?妄想だからって適当こいてんじゃねぇぞクソ陰毛」

「あーもうこの人は!存在してるから!あんたが言ったそういうのも全部聞こえてんだからな!!」


だからもっと気を使えとレオナルドさんは怒ってくれる。そこへ落ち着いた声が割って入った。
レオ君、と読めない表情で少しだけ首を傾げたのは、路地裏で出会ったあの人だ。


「どんな子なんですか?その女の子というのは」

「どんなって…えーと、大人しそうな子で中学生くらいかな。ブロンドの髪で、赤い上着と茶色のスカートはいてて……余計なこと言わないで下さいよザップさん」


途中で言葉を切ったレオナルドさんに、ザップさんはこれ以上ないくらい口角を下げて応える。


「そこまでいくと怖すぎてなんも言えねーわ」

「俺の言ったこと聞いてました!?ほんっとにサイテーだなあんた!!」

「こちとらついに想像上の女に走った後輩前にして途方に暮れてんだよ!察しろ!!」

「――あ」

「あ゛ぁ?」


不意に声を上げたのは他でもないあの人で。


「見えました。僕にも」


その顔は、しっかりと私の方を向いていた。






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