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その彼氏



初め乗り気ではなかった彼を、エリカが押し切ってお化け屋敷に連れ込んだのだそうだ。

最初そこへ入るのを渋った態度に、もしかするとお化けが怖いのではという危惧を抱きつつ入ったお化け屋敷だったらしいけれど、そんな心配は皆無だったらしい。

それよりも問題だったのは…



「なのにあいつってば、涼しい顔して『やかましい』って。虫でも払うみたいにあたしの手を払いのけたのよ」


そう言って、エリカはコップに残っていた水を睨みつけた。



エリカが言うには、彼が事も無げに順路を歩いて行くのを見て安心し、お化けに驚いたふりをして思いきり彼の二の腕にしがみ付いたらしいのだが、それはやかましいとの一言であっさりかわされてしまったのだと言う。




「女の子が怖がって抱きついてきたっていうのに、普通そんなことする?しかもそのままあたしを置いてスタスタ歩いていっちゃうし」


よっぽど腹が立ったんだろう。普段、エリカが私にこういう話をすることは滅多にない。
むしろいつもは私から振らないと彼氏の話なんてほとんど話題に上らない。



「変わった人だね」


彼女を宥めるためではなく、私は心の底からそう思った。

エリカは女の私から見てもそうとう可愛い。そんな彼女に抱きつかれて嫌な顔をする男の子なんていないと思っていた。

話を聞いている限り、エリカがその人に夢中だということは伝わってくるのに、話の中に登場する仁王雅治という人は、エリカにまるで興味がないように聞こえる。


私とエリカは小学校に入る前からの付き合いで、出会いは幼稚園の年少にまで遡る。
話すようになったのは小学校中学年の頃からだけど、それでも物心ついた頃から、私は彼女に対する男の子達の評価を間近で見てきた。

だからこそ、彼女に迫られて平気な顔をしている男子なんて想像もつかない。

それどころか、私に愚痴をこぼさせるほどエリカの心を揺り動かしたんだ。
そう思うと、その仁王って人はとてつもなくすごい人じゃないかと思えてくる。

話から、何となくそうとうな変わり者なんだろうという事だけは想像がついたけれど。


だけどそれから程なくして、私はその仁王なる人の人となりを思い知らされることになる。













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