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彼女と



「しかも、あいつってばその時あたしになんて言ったと思う?」



エリカは向かいの席からこちらに身を乗り出しながら、形のいい眉をめいっぱい顰めてみせた。

私は品の良いカップに注がれた紅茶をちびちび喉に流し込みつつ、そんなエリカのまつ毛を眺める。長いなぁなんて感心しながら。


長いといえば、この家に遊びに来てから延々続いている彼女の愚痴も負けてはいない。
私はそんなエリカの話に半分耳を残して、もう半分をコンポから流れてくる曲に傾けていた。


彼女の家ではお茶の時間に何か音楽をかけるのが常で、スピーカーからは外国人歌手の甘い歌声が緩やかなリズムにのって流れ続けていた。昔からここへ来る度耳にしている、名前も知らないラブソングだ。





「自分から誘ったくせに。冗談じゃないわよ!」



その声に、曲の方へ傾きかけていた意識が引き戻される。怒りのためか、まつげの先が細かく震えた。


怒りの矛先、先ほどからつらつらと文句を並べたてられている『あいつ』こと仁王雅治は、一か月ほど前にエリカに彼氏だと紹介された人だ。

顔はいいのにどこか飄々としていて、なんだか掴みどころのない人だったと思う。


エリカは誰もが羨むような容姿を持っているのに、どこか子供じみて放っておけない感じのする女の子だ。我がままで気の強い一面もあるのだが、それがまたいいらしく男子からは人気が高い。

だけど自分は美しいという自負のせいか、エリカには少し面食いなところがあって、中身よりも外見を重視して彼氏を選ぶ癖があった。
そのせいかどうかは分からないけど、エリカはどんな男の子と付き合っても決して熱心に入れ込むようなことはしなかった。

猪突猛進、思い込んだら一直線でことごとく玉砕の道を辿ってきている私とは大違いだ。

告白されて、嫌いじゃないから付き合っちゃうって感じの、エリカの恋愛観は分からない。
でもときどき、そんなエリカが羨ましくなる時もある。一歩引いて相手のことを見ているから冷静でいられるし、傷つくことも少ないんだろう。

いつでも受け身なエリカ。それでも、付き合いたいって男の子は後を絶たない。


私はまた、その仁王という彼がもつ端正な顔に惹かれたエリカが二つ返事でオーケーしたものだとばかり思っていた。
だけど、話を聞いている限りでは今回は少しばかり違うらしい。



今エリカが話しているのは先週の日曜日の出来事。
なんでも仁王に誘われて二人で遊園地に行って、そこでお化け屋敷に入ったそうなんだけど、
その内容は、悲惨としか言いようがなかった。






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あきゅろす。
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