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いやいやまさか。そんな訳がない。
あの男子に見覚えなんかないし。
「こーら」
ベシ、と何かで頭をたたかれ振り返ると、いつの間にこっちに来たのだろう、この図書室で司書をしている先生が、分厚い本を片手に立っていた。
「あ…小高先生」
小高先生は二年前、あたし達の入学と同時に赴任してきたまだ若い女の先生だ。
先生に会うためだけに図書室に顔を出す生徒も何人かいるぐらい、とても気さくで親しみやすい。けれど怒らせると結構怖く、またの名を図書室のドンという。
「なにしてんの?ぼーっとしちゃって」
言いながら先生はあたしがさっきまで見ていた窓の外を覗き込み、そして二、三度まばたきをすると意外そうにまたこちらを見た。
「あんた、年下が好みだったの。」
「へ?」
意図がつかめずまぬけな返事を返すと、にやにやしながら先生が窓の外を指差す。
「っな、そんなんじゃないですってば!」
何を指したかはすぐに見当がついた。
慌てて否定しながら、あたしが再び外を見下ろした時には、彼は彼がまったく話を聞いていなかった事にやっと気付いた真田に先ほどの何倍も怒られているところだった。
「じゃあ何?あっちの帽子の方?」
そう言って先生が真田を指さすもんだから、あたしは激しく首を横に振った。
冗談じゃない。良いやつだとは思うけど、真田を好きになるなんて考えられない。
だって真田とくれば自分にも他人にも厳しいことこの上なくて、至らないことがあれば彼女だろうと関係なしに説教しそうなやつだ。
そんなの至らない所だらけなあたしには絶対無理。デートする度に大説教大会が開催されてしまう。そんなの考えただけで恐ろしい。
しかしどうやらそんな真田も、いつまでも説教に時間を割いている場合じゃなかったらしい。話を切り上げた彼が踵を返してグランドへ戻って行くと、一人残された男子が再び上を向いた。
「―――っ!?」
ガタン、と椅子が大きな音をたてた。
何、今の。
ひらひらと「見えてます―?」ってこっちの意識を確認するみたいに手を振られ、思わず立ち上がってしまった。
そんな様子を見てか、彼がぶはっと噴き出した。
一気に顔が熱くなる。小さな笑い声が聞こえ振り返ると、今度は笑いをかみ殺していた先生と目が合った。
「青春だねぇ」
「だだ、だからそんなんじゃないんですって!」
「照れるな照れるな」
否定してみたものの、絶対に信じてくれてはいないと思う。
にやにや笑いを崩さないまま、先生はカウンターへと戻っていった。
きらきら、きらきら
かがやくことをやめた世界
何が変わったのか
何が、欠けてしまったのか
違うのに…。ポツリと呟いた言葉は、静かな図書室の空気にのみ込まれていった。
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