悪魔には朝も昼も関係ない
なぜか今日は意外なくらい早く目が覚めた。
目ざましをかけ違えたのでも、鶏が鳴いたわけでもない。とにかくいつもより一時間近く早い時間にぱっちりと目が開いた。
布団の中でごろごろ寝がえりをうちつづけた結果、二度寝を諦めたあたしはのそのそと起きだして食卓についた。
いつも惰眠を貪るあたしが起きてきたことに、初め母はびっくりしていたけれど、その内露骨に邪魔だオーラを出しだしたので、結局いつもより一時間早く家を出る羽目になった。
学校についても、当然教室にはまだ誰もいない。
時間を持て余し、少し悩んだ末に図書室へと足を向けた。
空が、とても青い日だった。
色彩革命
「栗原茜」
人気のない、朝の図書室で本を読みふけっていたあたしの上に、聞きたくもなかった声が降ってわいた。
まさか、あたしってばまだ寝ぼけてる?
幻聴に決まってるよね。いくらなんでもこんな朝っぱらから悪魔が出るわけないじゃーん。まったく、無駄にハラハラし、
「昨日はどーも」
「ひいっ」
必死に逃避を図ったが、本との間に割り込むように顔を覗き込んできたそいつによって、やむなく現実へと引き戻された。
「待った待った、逃げんな」
またもや駆けだそうとしたあたしの肩を掴んで椅子に押し戻し、切原はとんっと身軽に机へ腰掛ける。
「なんで居るのよ」
とはさすがに言えなかった。
だってここは学校の図書室なわけで。例え、昨日よく知りもしない後輩に、何か訳のわからない告白じみたことを言われていて。できれば今後二度と関わりたくなかったなんて思っていたとしても、だ。
「そこ、座ってたら怒られるよ」
「え?」
「机」
「あ、わりぃ」
あっさりと机から降りたのがちょっと意外だった。
そういうところはさすが運動部というべきか。この切原赤也とかいう男は、意外と素直なヤツなのかもしれない。ただ、少しばかりおかしいことを口走る癖があるだけで。
ほんと、癖だったらどんなにいいだろう。誰にでもこんなこと言っちゃうんスよー、なんつって。そんな癖があっても嫌だけど。
隣の椅子を引っ張りだし、そこにどかっと腰かける。
「こーんな朝っぱらから、よくこんなとこに来れるよな」
「…こんなとこで悪かったわね」
普段ならこの時間にあたしが図書室にいることはない。
ちょっと早く学校についちゃったから時間を潰そうと思っただけだったのに、こんなことなら来るんじゃなかった。
母さんの邪険の目に耐えつつ食パン齧ってるほうがよっぽどよかったよ。
「で、何の用…?」
「決まってるっしょ。昨日誰かさんが逃げ出した話の続き」
駄目もとで訊いてもやはり理由は同じだった。
悪魔の晴れやかな笑顔と一緒に、あたしを憂鬱の底に叩きこむ言葉が返ってくる。
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