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隣を歩く切原を見やれば冷やかな視線が返って来る。


「なんであんな思いっきり絡まれてんの?」

「ちょっとぶつかっちゃって」


鋭い眼差しに怯みつつも素直に白状すると、前ぐらい見て歩けよと呆れられた。


「切原、なんでこっちに…」

「駅まで送っていこうと思って。副部長達には先に病院行ってもらった」


来て正解、と言葉は続く。
それは、結果的にそうなのかもしれないけど。でも正直、素直には頷けなくて。


「ごめん、助かった…」


それは本当。実際あんな風に凄まれれば怖かったし、困った事態だって思ってた。


「だけど…もしまたあんな場面見ちゃったら、次は放っといてくれて良いから」

「はあ?」


苛立ちを隠しもしない声を上げて切原が足を止めた。
釣られて立ち止まったあたしはおずおずと視線を上げる。深く眉間に寄った皺に、あぁそうだよねなんて考えながら。無理やりな笑いを浮かべて自分を指す。


「ほら、こんなのに手出すなんて大概物好きだしさ。男じゃないからぼこぼこにされることだって、まぁ無いだろうし」


最悪なこと言ってるとは思う。相手の厚意を無下にするって正にこういうことで。助けてもらっといて何言ってんだって。
でも逆にあそこで喧嘩になっちゃってたらと思うと、その方がゾッとする。絶対あたしそんなの止められないし。


「…あんたそれ本気で言ってる?」


呆れた声で溜め息を吐かれた。


「こんなのだろうが、そんなの男にとっちゃあんま関係ねーし」

「それでもいざとなったら自分でどうにかするから」


まさか貶されながら切原に作り笑いする日がくるなんて。
はははーと空々しい笑いを向けたことが切原の癇に障ったのかは分からないけど、その顔がさらに険しくなった。


「あんたってマジで馬鹿だな」


低いトーンで言われたかと思うと、切原の手が伸びてくる。


「ちょっと、痛い」


掴まれた手首がぎりりと締まった。


「どうにかなるって思ってんならこれ振り解いてみたら?言っとくけどまだ俺全然力入れてねーからな」


そう言われて素直に従うわけもなく、腕を掴まれたままただただ睨み合いのようになる。
力の差ぐらい分かってるし、さっきの人の手で無理だったなら切原だって当然無理だ。
だけど不意を突くとか、股間狙うとか、そんな上等手段はいくらでもある。まぁリスク高いし無事で済むなんて思ってないけど。
とはいえ、切原に今その手の全力抵抗を試みる必要もない訳で。


「離して」

「あのなぁ…!」

「だって、どうでもいい人の為に危ない事に首突っ込むなんて、馬鹿げてる」


何か言いかけたのを遮った言葉に、切原が声にこそ出さなかったものの、再びはぁ?って顔をした。
そのまま固まっているように見えるのは、頭の中で何やら考えているからなんだろうか。
ややあってゆっくりと瞬きした切原は、気勢を削がれたように

「馬鹿げてても、そうしなかったら後悔するかもしれねーだろ」と口にした。

その言葉にずきりと鋭い痛みが走る。
後悔…なんて。


「…助けて、自分が酷い目にあったらそんなこと言えないんじゃない?」


切原を睨みながら言ったその台詞にちょっと鼻の奥がツンとして、あぁ最悪だって思う。このタイミングで泣くとかない。それだけは絶対嫌。
俯くと自分の靴先が視界に入る。


「…だとしても」


真っ直ぐな声がした。


「あの時どうにかしてればって思うより、ずっとマシ」





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