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あたしの事情とヤツの事情
 

約束の日曜日はあっという間にやってきた。
住んでいるところから電車で二駅。学校からちょっと離れたそこはあまり馴染みのない街だった。
十分前に行ったら、既に待ち合わせ場所には真田の姿があった。さすが、生真面目の代名詞だ。


「来たか。行くぞ」


一切の無駄を省いた台詞とともに歩き出した真田の後について行く。


「すまないなせっかくの休日に」

「いいよ。あたしも丁度本屋行きたかったし」


それにせっかくの休日なのは真田の方でしょと返せば、意外そうな目を向けられた。


「部活の無い日曜って貴重かと思って」


それをあたしなんかと出かけることに使って良いんだろうか。


「詳しいな」

「あ、うん。…恵理子がね、詳しい」


とか言いつつ本当は切原達の会話から入った知識な気がする。いつの間にかそんな事が当たり前に口から滑り出るようになってることに自分でも驚きだ。

そりゃ真田だってびっくりするよ。興味無さそうな顔して実はめちゃくちゃ興味あったりされるとちょっと怖いし。
こう、刑事もののドラマとかでまったく無害だと思ってた人間が犯人だった時の方がより怖いみたいな。ないって信じ切ってたものがあるとね。

ふと気付けばさっきまで左にいた真田が右にいる。いつの間に入れ替わったんだろうなんて思ってしばらく歩いていると、また左に真田がいる。次の曲がり角に差し掛かった時にようやく気がついたけど、ずっと車道側を歩いていてくれたらしい。
わぁ。意外と紳士じゃん真田。



案内されるがままやってきたのは結構大きな本屋だった。
普段この辺に遊びになんて来ないから、こんな所に本屋があるなんて知らなかった。初めて入るお店に少し心が躍ったのだけれど、自動ドアの前で何気なく真田の方を振り返り、思わずフリーズした。
真田越しに見えた風景の中に、仁王のような人影が見えた。
いや、それだけじゃない。
側の電柱からやっぱりかくれんぼには不向き過ぎる赤い頭がはみ出ている。その反対側からはもじゃもじゃ頭。組み合わせから言ってもう仁王に間違いない人影に至っては、隠れる気すらなくそこに突っ立っていた。










「なー、もういいだろぃ…ケーキ食べに行こうぜー」

飽きたー、と退屈しきった声と丸井先輩の顎が脳天に降ってきた。

「ぐりぐりすんのやめてもらえませんかね」

「服だってどっちも全然気合入ってねーじゃん。ぜってーデートじゃねえだろぃ」

「あれが勝負服だったらどうすんスか。あの人可哀想すぎますって」

「せめてスカートが良かったぜよ」


上を見上げると丸井先輩の頭の上に仁王先輩の頭があった。串団子みたいになってる。

先輩あいつのスカート姿なんか見たいのか?つか普段制服で見まくってっけどそこノーカン?

前の二人が角を折れたので、隠れていた電柱の陰から出て曲がり角まで急ぐ。
何でこんな事してんだ俺。そうだ先輩達とゲーセン行こうとしてたんだ。そしたら待ち合わせしてるっぽい副部長見つけちゃって、声かけようとしたら仁王先輩に止められて、そこになんでかあいつが現れて…


「ちょっ、丸井先輩どこ行くんスか!ってもう仁王先輩どっか行ってるし!?」


堂々と通りを横切りケーキ屋のショーケースにはり付いていた先輩が今日一いい笑顔で振り返った。


「見ろよ赤也!このシュークリーム超うまそうじゃね?」

「大声出すの勘弁して下さいよ…って、うわマジうまそうじゃないっスか!こっちのプリンもヤバいっスね!」

「だよな!わかってんじゃねーか赤也!おばちゃんこれとこれ!それからそっちのも!」

「げ、また曲がった!見失っちまう!」

「マジかよぃ!おばちゃんあとこれとこれもな!」





甘いものが手に入って気が済んだのか尾行の方に戻って来た丸井先輩は、買ったばっかりのシュークリームに早くも齧り付いている。それはいいけど食べカスを人の頭の上に落とすのはやめて欲しい。
電柱の陰に一つ二つと頭を並べて、連れ立って歩く副部長たちをまじまじ観察してみるけど、確かに丸井先輩が言った通りデートっぽい雰囲気じゃない。
どっちかっていうとクラス委員が買い出しにでも来てるような感じだ。


「けどさぁ、あの組み合わせおかしくね?あいつらただのクラスメイトなんだろぃ?」

「そのはずなんスけどねー…」


遠慮なくシュー生地の破片を降らせながら、彼氏のくせに知らねぇのかよとニヤニヤしてくる。マジ食当たりとかになんねーかなこの人。


「お、止まったんじゃね?」

「みたいっスね。えーと、何の店だあれ」

「どうなったんじゃ?」


思ってもみなかった方から声がして、肩が跳ねた。どっか行ったと思ったらいつの間にか戻ってんだもんな仁王先輩。


「ちょ…せめて隠れてくださってうわこっち見たっ!」


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あきゅろす。
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