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約束は突然に


昼休みも終わりかけた頃、いつも通りしっかり気疲れを起こしたあたしが重い足を引きずりつつ教室へと帰る道を辿っていると、教室の前で真田に呼び止められた。
珍しいこともあるもんだなんて考えにデジャヴを感じ、よくよく考えれてみれば以前に用がある風だった真田をそのまま棚上げしていたことを今さらに思い出した。
色々ありすぎてすっかり頭からすっ飛んでいた。


「折り入って頼みがあるのだが」

「え、なに?」


そう言う真田の声も視線も驚くほど真っ直ぐで、自然と背筋が伸びる。そんなに改まってどうしたんだろ。


「次の日曜、俺と出かけてくれないか」


一瞬、あたしが魔界に片足を突っ込むきっかけになった切原のお願いを思い出したからか、口角もほっぺも眉も顔のあらゆるパーツが自分でも分かってしまう程にだだ下がった。


「…な、なんだその顔は!?」


な ん だ そ の 顔 は !?

その反応はさすがにどうかと思いながら、ドン引きしているのか真田が顔を強張らせるものだから、つられてあたしの顔も強張る。もとい、引き締まる。

だ、大丈夫!相手は真田だ、あいつみたいにぶっ飛んだ話の可能性はない。ないない絶対ない。

もう完全に引きつり笑いになりながら訳を訊ねてみると、なんてことはない、入院している友達の為に暇つぶしになるような本を選びに行きたいのだと話してくれた。


「なんだ、そういうことなら喜んで」


あたしがほっと胸をなで下ろす一方で、真田の顔の強張りも解消された。


「そうか!すまないな休みの日に。自分でも見に行ったんだが、あいつの好みは難しくてな」


それ、あたしで役に立つかな。
一抹の不安を残しつつも待ち合わせの時間と場所を決めた。真田の目的が明確だからか、どうするもこうするもなくサクサク話が進む。


「では、よろしく頼む」

「こちらこそ」


まぁそんなに特殊なの選ばなきゃ平気…だよね?そう思いつつ立ち去る真田を見送った。


「あ…」


本屋という行き先に釣られてうっかり約束しちゃったけど、よくよく考えてみれば真田もあのテニス部だ…。
まずかったかな…。いや、でも恵理子の反応を見る限りそんなに心配はなさそうな気がしてくる。うん。真田だし案外大丈夫だったりして…?


「浮気の算段か?」

「ひっ!?」


何の前ぶれもなく肩口にぬっと顔を出した男、仁王はあたしと目が合うと口元を歪めて笑った。


「聞いてしもうた。お前さん意外とスリルを楽しむタイプじゃったか?」

「ななななんのはなしでしょうか!?」


いつから!?いつからいたの!?
あまりに仁王らしい神出鬼没っぷりに震えあがる。


「教室に戻ろうとしたら珍しい組み合わせで話しちょるから気になったナリ」


そう言って仁王は隣のクラスを指した。
あ、そうなんだ仁王ってB組だったのか。ってそうじゃないそうじゃない。
このペースに乗せられるべからずだ。

そうだよ別に休みの日に真田と出かけようが別に問題ない…ないよね?な、ないはず…。

一応名目上は彼氏ということになっている切原の顔が頭を過る。
隠しきれない動揺と共に顔を上げたあたしをまじまじと眺めまわし、仁王は溜め息混じりに呟いた。


「まさかあの真田と栗原がのう」

「ち、違うから仁王、出かけるって言ってもただ本屋に行くだけで…」

「ほう。そうかそうか、真田とお出かけするんか」


…ん?

なーんか……あれ…?


「ちなみに俺が聞いとったんは真田が“よろしく頼む”とかなんとか言うとったあたりぜよ」

「あああああっ乗ってた!もう乗ってたっ…!」


あたしが頭を抱えるその一方で仁王はくつくつと喉の奥で笑う。
脱力しきりで項垂れていると「真田のやつだいぶ緊張しとった」とちょっと違う方向でボールが返ってきた。
見上げた仁王はなぜか可笑しそうに肩を揺らしていた。


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あきゅろす。
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