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解散後、とぼとぼと一人帰路を辿っていたあたしは追いかけてくる声に足を止めた。

昼間の熱が嘘みたいに引いた夜気の中、疎らな街灯の下を切原が走ってくる。見えなくなって、また見えるようになってを繰り返すから、ゆっくりと明滅してるみたいに見えた。


「どうしたの?」


追いついた切原は、少し乱れた息をのみ込んでまるでそうするのが当たり前みたいに言った。


「送ってく。家どこ?」

「え?」

「…何だよその顔」

「だって、あんたが優しいこと言う時ってだいたい裏があるような…。家までバレたらそれこそ逃げ場ないし」

「あんたちょっと自意識過剰なんじゃない?」


手をまごまごさせつつ答えると、切原が仕返しとばかりにせせら笑った。
その一言を聞いて切原を置き去りにしなかったあたしは褒められていいと思う。

結局は押し切られる形で一緒に帰る事になったものの、なにぶん話題と言うものがないので、ほとんどが無言で一緒に歩いているだけなこの状況。誰の目から見ても、恋人どころか友達以下なことだろう。むしろ後を付いて行くような絵面になってるぶん親分と下僕にすら見えるかもしれない。

不意に、前を行く切原が振り返って「これならそれっぽいだろ?」と笑った。

どこがだ。これが恋人のように見えるなら駅前でいちゃつき倒しているカップルは一体何だ。そうは思ったけれど、なぜかちょっと楽しそうなので何も言わない。

小さい子がするようにバランスを取りながら縁石の上を歩いていく後ろ姿。

切原は、テニス部といる時はもちろんだけど、時々あたし相手にも子供みたいに無邪気に笑う。
悪魔みたいに意地悪な顔ばっかりかと思ったら、ふと思い出したみたいにそんな顔で笑う。感情と表情が直結だ。根がそうなんだろう。直接的な物言いも、意外と素直なところも。
正直、嘘とかつけないだろうなって思う。

でもこれは嘘の関係で、しかもきちんと欺かないといけない相手がいる。
見せる相手がいないのにそれっぽくしたって意味なんかないと思ってたけど、普段からそうしないとすぐバレるって仁王の言葉はたぶん的を射てる。切原は、そんなに器用なタイプじゃない。

その挙句誰かと付き合った経験もないあたしが相手で、本当にその子を騙せるのか。もう不安しかない。


「お、ブランコ発見。ちょっと寄ってこーぜ」


あー自由だ。
足取りも軽く公園に入っていく後ろ姿を見送りながら、もう置いて帰ろうかなと考えたのを見透かしたように切原が大声で名前を叫ぶから止めに行かざるをえなくなって、そうしていつの間にかブランコに座っている自分がいた。

…この流されやすい性格ほんとどうにかしたい…。

項垂れるあたしの横で切原は悠々と立ちこぎなんかしている。もう、ほんと…楽しそうでなによりです。
軽く足で地面を蹴れば揺り籠みたいにゆらゆら揺れるブランコにちょびっと癒される。
今日はいつもに増して色々あった。

なんか、疲れた…と小さく溜め息を吐いた時だ。


「――あんたさぁ」


高い所から降ってきた声に、のろのろと顔を上げた。


「…何?」

「………」

「………」


何か言いかけたくせに切原は黙ってぶらんぶらん揺れている。
振り子のようになりながら、切原はぼんやりと宙を見つめていた。

かと思えば、今度は探るような視線を向けてくる。
目があって。視界から消えて。また同じ位置で目が合う。
まったくの無表情でしばらくそうしていたかと思ったら、


「変」

「へ、変…?」


直球かつ端的にディスられた。


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あきゅろす。
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