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脇道ヴィジット
 
テニス部御一行様が向かったのは、有名ドーナツチェーン店だった。
みるみるトレイに山盛りになっていくドーナツを信じられない思いで見ていたあたしは、ハッと辺りを見まわす。
言われるがままほいほい付いて来たけれど、ここは最寄りの駅前だ。
電車通学の生徒は専らこの駅を使うし、そうじゃない生徒も学校から近くファストフード店が集まるこの辺りにはよく来るはず。

こんなとこ、見られでもしたら…!

さりげなく輪から外れて帰ってしまおうとゆっくり後ずされば、抜かりなく睨みを利かされる。
仕方がないので不審者のように周りをきょろきょろ警戒しつつ、あたしはすぐさま席の一番奥を陣取った。
人数が人数――しかも男ばかり――なだけに、ボックス席はぎゅうぎゅうすし詰め状態だ。右に壁、左には各々の荷物が積み上がっている。その間にサンドされ、私はやっと一息ついた。


「何してるんだ、そんなとこで?」

「ひっ!?」


と思ったのも束の間、壁の向こうから色黒の坊主頭が現れた。


「帰ったのかと思ったぜ。そんなビクビクしなくても、何にもしないから」


一見普通だが、このメンツでいると物凄く穏やかに見える笑みを浮かべる彼、ジャッカル君はこのテニス部の良心とも言うべき存在だ。
恐ろしく横暴かつマイペースなやつらに囲まれる中、彼の常識ある発言に幾度救われたか知れない。


「いえ、これはあなた達に怯えている訳ではなく…」


テニス部ファンから身を隠しているのだが、こっそり辺りの様子を窺うと、他校の女子やまったく関係ないであろうスーツ姿のお姉さん、果てはカウンターの向こうにいるバイトの女の子までが色めきたった視線をちらちら向けている。
恐るべし美形集団。
束になった時の乙女心吸引力には目を見張るものがある。


「ここにはよく来るの?」

「そうだな。帰りに何か食っていくなら大体ここかお好み焼き屋だな。ブン太がここばっかり指定するんだ、塩気が欲しい時なんかはまいる」


そう言ってはにかむように笑う彼に、少しだけ肩の力が弛んだ。
日頃、切原丸井仁王の三強に追い込まれているあたしの胃がほっと息をつける瞬間が、柳生やジャッカル君と話す時だ。

ただ、ジャッカル君は学校の廊下なんかであたしとばったり出くわした時は、何故か少しばかり挙動不審になる。他のメンバーとも廊下で会えば挨拶くらいはするし、軽く話しかけられることもあるのに、彼の場合はなんだか避けられてでもいるみたいだ。
別に困ることは無いけれど、そうやって逃げられるとほんの少し寂しくなる。
そしてそれは柳生もだ。教室にいる時は完全にただのクラスメイトだ。いやただのクラスメイトで間違いはないのだが、どことなく冷たいというか…しっかりと線を引かれている気がする。テニス部だって知る前の方が、もっとクラスメイトっぽかった程だ。
こうして大勢でいる時は普通なんだけど…。


「丸井って病的に甘いもの好きだよね」

「はは、少しは控えろって言ってるんだけどな」


自分の名前に反応したのか、機嫌良くクリームがたっぷり詰まったドーナツにかぶりついていた丸井が、ひょいとこっちの会話に入ってくる。


「なんだよ二人して、俺が天才的って話か?勘弁しろよぃ」


自意識過剰かと突っ込みたくなる丸井の発言に、言ってねぇよ一言も、とジャッカル君が呆れて笑う。


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あきゅろす。
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