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最後までねばってみたが、結局ケータイに連絡が入るよりも早く、図書室の方が閉まった。
どうかもう少しだけ神様仏様小高先生様と拝み倒してみたけれど、今日はとっとと帰るんだと放り出された。無情だ。
あたしはまだまだ帰れそうにはないのです先生。

そうだ、図書室閉まったから帰っちゃったーゴメンね☆みたいな感じで帰れないだろうか。待つ場所も無かったしーって。
さっそくケータイを取り出しメールを打ち始める。

『図書室閉まった。帰る』

短く用件だけを打ち終え、送信ボタンを押そうとしてやめた。後日またやいやい言われるのは自分だ。教室に悪魔が乗り込んでくるなんていう最悪のパターンもあり得る。
しばらく考えた後白紙に戻して文章を打ち直し、悪魔野郎に送りつけた。

『図書室が閉まったので、終わったら連絡下さい』

なんて事務的、あげく後輩に敬語…。まぁメールだとこんなもんだろうが、ものの一分もかからず打ったそこに自分のビビり具合が浮き彫りになっている気がして、肩を落としてケータイをしまった。

さてどこで時間を潰すか。座れる場所のある教室か中庭…、でもこの時間なら明るさ的にも教室かな。いつまで待つか分からないし。
階段を上がって三年の教室が並ぶ廊下に出る。
沈黙した教室が並ぶ中、一つだけ電気がついている教室があった。特に何ということもなくその前を通り過ぎた時、後ろから声がかかった。


「茜―」


聞き覚えがあるどころじゃないその声に、おもわず足を止めた。止めてからしまったと思う。気付かなかったふりをしてそのまま行けば良かったのに馬鹿正直に反応してしまった。
振り返らずとも声の主はわかる。
足音がして、誰かがドアの所まで来る気配。


「久しぶりー。元気だったぁ?クラスが離れてから全っ然合わないからどうしたのかと思ってたんだ」

「………」


ゆっくり振り返ると、入口の壁に手をかけて身を乗り出している女子の姿があった。パンツが見えるギリギリまで短く折られたスカート。ウェーブのかかった長い髪と、クレンジングを手にした教師に追いかけられていることもあったばっちりメイク。

リナ…。と蚊の鳴くような声が唇からこぼれた。

クスクスと教室の中から他の女子達の忍び笑いがもれる。見える位置の席には見知った顔も知らない顔も半々くらいで、知っている方が知らない方になにやら耳打ちしている。
相変わらずの大所帯のようだ。
少し顎を引いて、上目使いでリナが挑発的な笑みを浮かべる。


「もしかしてあたしのこと避けてたとか?」


当たり前じゃないと心の中で毒づく。もしかしてどころかあからさまに避けまくっていた。
その姿を見れば道を変えるし、トイレに入っていく姿を見れば階を変えてでも違うトイレに入る。廊下で行き会えば他所の教室にエスケープか回れ右だ。


「だとしたら少しは学習したんだー。茜のくせに」

「…おかげさまで」


気丈に歯を食いしばっていても何も好転しないと学んだ。プライドなんて事態を悪化させるだけだ。逃げ回れるうちは逃げ回っておいた方が賢い。
獲物を狙う蛇のような目にじっと見つめられ、目を逸らすことができない。足が廊下に根を張ってしまったようになっている。


「ねぇ、茜も一緒に遊ばない?久しぶりに」


嫌な汗が滲んでくる。ぎゅっと拳を握りしめた時、タイミング良くケータイが鳴った。
着信を知らせるバイブの振動にハッと引き戻され、頭に現実感が、足に感覚が戻った。


「…今急いでるから」


そう言って、元来た階段へ引き返す。すれ違うリナの目は、弓を引き絞るように鋭く細められていた。怒りだす寸前くらい、不満を募らせてる時の目。
あたしはその目に背を向け、逃げるようにその場を後にした。


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あきゅろす。
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