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これを跳べって?
これぐらい余裕でしょと切原が自分基準極まりない事を言った。
男子と、それも運動部のやつと一緒にすんな!!
完全に足が竦んでいる。
「早くしないと売り切れるだろ!」
「っこ、こんなの飛べるわけないじゃない!」
なんなの!?これは試練か何かなわけ!?あたし試されてるの!?何を試されてるの!?
「無理!怪我する!絶対する!」
「だーっもー!受け止めてやるからとりあえず跳べって!」
「とりあえずでこんなの跳べないでしょ!」
「ちょっと助走つけりゃ平気でしょ」
段々切原の声が面倒くさそうになっていく。そして苛立ちまで滲み始める。
あ、これマズイ。
だが冷や汗をかきつつも腹が括れない。でも…と言い淀んでいるとついに切原が痺れを切らした。
「うだうだ言ってっと置いてくからな!」
この悪魔が!
心の中で悪態をつくが、無情にも悪魔は下の地面を確認し出した。
もしここで置いて行かれたりしたら進むことはおろか戻ることも難しい。
自分が降りてきた窓に目をやるが、それもよじ登れるかどうかの高さだ。しかも窓の向こうにはたぶん人がいっぱい…
「ちょ、待ってよ切原っ」
「これ以上は待てない。俺は行く」
「〜〜〜〜っ」
右足を思い切り振りあげ、左足で力いっぱい地面を蹴りつける。空中へ飛び出した身体は浮遊感など感じる余裕も無く落下していく。
お願い届いて!
もしこれが届かなかったらあたしまぬけすぎるから。購買のスペシャルパンが欲しいばっかりに渡り廊下の屋根から落ちた、食い意地も頭もやばい女になるから。
体育用具入れの屋根がスローモーションで迫ってくる。
ダンッっと両足がコンクリートを叩いた。のに。身体は大きく後ろへ仰け反った。
「あああああっなんで!?」
上から見るとまったく分からなかったが、用具入れの屋根は後方に向けてわずかに傾斜していたらしい。すぐさま引っくり返るかに思われた身体は、腹筋によるなけなしの踏ん張りによって一時均衡を保ったが、徐々に後ろへ向けてその傾きを増していく。
おおお落ちる!落ちるっ!神様今だけあたしを木の葉か何かに、
「危ねっ」
「――ふ…」
バランスを取ろうと振り回していた腕を切原が掴んだ。
…こ…怖かった。生きた心地が…。
引き戻されて、そのままコンクリートの上にへたり込んだ。心臓があり得ないぐらいバクバクいってる。怖すぎてもうしばらく立ち上がれない。マジで。
「次からは助走つけろよな」
あたしの心臓が破裂寸前なことなんてお構いなしであろう悪魔様は居丈高にそんなことをのたまう。
いや、助けてくれたことについてはありがとうございます。でも次なんて無いから。
こんなこと二度とするもんかと心に決める間にも、切原は用具入れから飛び降りている。まだあるのかとうんざりしたものの、ようやく念願の地面と再会できることに両手を振り上げたいほどの喜びを感じた。
とはいえ、ここもジャングルジムのてっぺんばりに高さはあるのだ。
屋根からぶら下がっての降下を試み、最終的にぼてっと落下したあたしを、切原はまるで芋虫でも見るような目でみていた。
そうして置いて行かれそうになりながらも、白ウサギを負うアリスの様に――枝で引っかき傷を作っただけでそんなファンタジックさはこれっぽちも無かったけれど――茂みの中を突き抜け、どうにか購買に辿りつく頃にはもう、あたしは心身ともに疲弊しきっていた。
なのに…
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