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「欲しいなら動くしかないだろ。そうやって何もしないから色がないとか言う羽目になんだよ」
「だからそこには触れないでって言ってるでしょ!」
もうほんとこいつは人の痛いとこばっかり容赦なく突きやがって。
「つーか、言ったしな」
「何を」
「交換条件。こっちのことに付き合わせる代わりに、俺があんたの世界に色を戻してやるって」
いつの間にそんな約束になっているのか。っていうか、あの時の台詞ってそういう意味だったのか。
「別に頼んでないじゃない。あれだって別にまんまあたしの事って訳じゃ…」
「ふーん?けどあんただってパン食いたいんでしょ?」
「それは…まぁ」
「って訳で、明日は弁当はなし。持って来ないこと」
「…はい」
っていうか、それを一口くれるって選択肢はないのね。
結局ろくな反論も思いつかないままに明日の事が決まったその時、ふいに切原の視線があたしの背後に向いた。
草を踏む足音が近づいてくる。振り返ると、そこには真っ赤な頭のあいつがいた。
「もー遅いっスよ、先輩」
「悪い、完っ全忘れてた」
約束でもしてたのか、片手をあげて詫びたそいつは愛想の無い目をあたしに向けた。お返しとばかりに冷めた視線を返す。
「よお」
「こんにちは丸いくん」
口にした途端、女の子ばりに大きな目が吊り上がる。
「おいちょっと待てコラ、なんで今悪口言った?発音おかしかったぞ。なぁおい」
そして、自ら喧嘩を売っておきながら予想以上の迫力にビビるあたしの頭を鷲掴む。
ミートボールにデザートにおやつ。いつもいつもお弁当から何かをかすめ取られることへのちょっとした意趣返しのつもりだったのが、思いのほか丸井の癇に触ったようだ。
「ま、丸まではいかなかったかも。ふっくらぐらい…?」
「ふっくらもしてねえよ!だいたいお前人のこといえんのか!」
「うわ酷い!女子にそれは酷い!ちょっと触らないでよ!」
二の腕の肉を遠慮なく掴んでくる手を払いのけようとしたけど、素早く避けた丸井はこちらを馬鹿にするように離した手をひらひら振って見せた。
「どこに女子がいるんだよ?」
ここにいるでしょーがここに。
楽しめと言った仁王の顔が頭を過る。
無理に決まってるじゃない。あたしはファンでもなんでもないのに。そんな人間からみれば天下のテニス部レギュラーだってただの部活男子なんだからな。
敵意剥きだしで睨みあっていると切原が何やら耳打ちしてくる。
「勝ち目ねーからやめとけよ。ちょいちょいからかわれるから実はけっこー気にしてんだよな」
「おい赤也、余計な事言うなよな!」
「お菓子ばっか食い過ぎなんスよ丸井先輩は」
「うっせー。俺の勝手だろぃ」
気にしてるのに食べるっていうのは、あれか。女子と同じ心理なのか。丸井ちゃんか。
やはり丸い丸井の頭にリボンをつける妄想をして遊んでみたけど、女物の服を着せると無駄に可愛くなりそうなことに気付いてやめた。
ちょっと訂正。ただの異様に顔の整った部活男子だ。
やっぱムカつく程に顔は綺麗なんだと再認識。お菓子ばっかり食べてるくせに。…ってこれは関係ないか。
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