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自分のクラス以外に友達のいないあたしには真偽の程は確かめようも無い仁王の話。けれどそれは確実に肩へ圧し掛かる荷を減らしていた。

足取りも軽く教室へ戻ったこの日、あたしと切原は珍しく二人だけでお昼を食べていた。


「本当かどうかなんて自分で聞いて確かめれば?」


話が仁王が持ってきたという情報のことに移った時、なんてことない調子で切原がそんなことを言った。


「…聞けたら苦労してないから」

「なんで?あんただってバレてないならまだ聞けるだろ」

「いや、それもだけど…あたし友達少ないし」


自分で言ってて辛い…。でも実際聞けるような子がいないのは事実だ。絵里子ならなにかしら知っているだろうけど、仁王と知り合いなのかと問い詰められたことがあるだけに、テニス部の情報を引っ張り出すのは墓穴を掘るようなものだ。


「あー、確かにあんた友達いなさそうだよな」


ぐさりと刺さった。やめて!本当のことってかなり人の心えぐるから!
そりゃ人に囲まれてきゃあきゃあ言われてるあんた達から見ればあたしなんかゴミくず同然でしょうけど。


「なんたってノートにあんな事書きためてるぐらいだし」

「ちょっともうそこには触れないで!ホントにやめて!」


耳を塞ぎながらの抗議もこいつにはあまり効果を発揮しない。いいからその腹立つにやにや笑いをやめろ。


「ま、あんたに友達がいようがいまいがどうだっていいんだけどさ」

「あーそうですかそうでしょうとも」


何度お昼を共にしようと小競り合いは絶えない。もうあたしとこいつの組み合わせが最悪すぎるんだろうな…なんて諦めの目をするあたしの斜め向かいで、切原が新しいパンのビニールを破く。


「あ」

「んあ?」


切原がかぶりついたパンを指してあたしは目を見開いた。


「切原、それ…購買のスペシャル焼きそばパン!?」


破かれたビニールには金色のシール。それは確か、購買でも限られたパンにしか貼られてないスペシャルシールなはず。しかも切原が食べてるのは焼きそばパン。
ってことは、つまりあれだ。昼休みが始まるなり争奪戦が勃発して、購買から遠い中等部ではまず手に入れられないと言われている、あの…!


「へへ、いいだろ」


得意げな顔で切原はパンにかぶりついた。
それもそのはず、なんせほっぺが落ちそうなほど美味しいと評判のこのパンは一日三十個の限定販売で、食べたことのある人って中等部にはほんとにほんの一握りしかいないらしい。実際あたしも見たのは初めてだ。


「すご…」


素直な感想を漏らすと、切原がちらりとこちらを見た。


「欲しいなら今度連れて行ってやるよ」


いや別にそこまでは、と思ったのだが切原はすでになにやら算段を立て始めている。


「確か三年の教室って三階だろ。真田副部長のクラスって確か一番端の…げ、階段から一番遠い教室じゃん」


あのもじゃもじゃ頭の中でどんな構想が巡らされたのかは知らないが、どうやら考えはまとまったらしく、


「丁度水曜だし、明日行くか」と、あたしの意見は丸無視で話が進んでいく。
プランも何も話されていないだけに漠然とした怖さしかない。


「あたしそもそも行くなんて一言も言ってないし」

「はぁ?」


意味分かんねーとのお言葉を頂きました。はい。


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