日々、戦い
そんなお弁当計画がスタートして二週間がたった。一度だけで済むはずもなく、だいたい三日に一度くらいのペースで呼び出されてはいたが、初日にあれだけの衆目を集めたのだからと、テニス部レギュラーを説き伏せ、なんとか中庭からは離れる事ができた。
おおっぴらにするより時々こそこそ会ってる感を出した方が本当っぽいでしょ、とあたしの身の安全をかけた切実な訴えは聞き入れられ、場所は人目の少ない場所へ移り校内ではささやかな噂がたち始めた。
…らしい。あたしの耳にはまったくそんな情報入って来ないけれど。
導火線の先で燻っていた火がついに爆弾までの距離を縮め始めたのだ。
さすがに初日ほどのテニス部メンバー一挙襲来はなくなったものの、結局日替わりで誰かが顔を出すものだから、お昼を共にする時は大抵が三人ないし四人で弁当を囲む羽目になっていた。意味があるのかと疑問に思わなくもない。
とにもかくにも、あたしの学園生活は確実に変わり始めた。ただし悪い方向に、というのは思考から締め出すべき最重要事項だ。
正面に座って購買のパンを頬張る恵理子の視線がチクチク刺さって来たのは、そんなある日の午後の事だった。
「茜、最近よく食堂行くようになったわよね」
「…え?そうかな?」
そろそろ来るだろうかとは思っていた。今までいつもお弁当だったあたしが急に食堂へ、それも一人で通うようになって怪しまない訳がない。
とぼけながら、そろそろこの言い訳も苦しいなんて思っていたところに、恵理子がにやにやしながら顔を覗きこんでくる。
「彼氏でもできたの〜?」
「っげほッ!!ごっ、ウェッほ!!」
「ちょっと!もうちょっと可愛く咽なさいよ!!」
あまりにもド真ん中を突かれて吐く直前ぐらいの勢いで咽た。目尻を拭って顔を上げると、机の上から恵理子と千春のお弁当が消えていた。避難のためしっかり各々の腕に抱えられている。
「可愛い咽かたってあるわけ?」
尋ねる千春に、「もっと人の目を意識しなさいってことよ」とお弁当を戻しながら恵理子が答える。人の目か…ここの所嫌でも意識させられてるんだけど。
「っていうか…そんなに動揺するってことは、まさか図星!?」
ぎゅおん、と音が聞こえそうなほど急上昇した恵理子のテンション。あたしは慌てて首を振る。ここで全否定しておかなければ刺客に撃ち殺されると言わんばかりの勢いで。
「ま、まさかっ!そんな訳ないじゃんあたしだよ!?」
「そんな力いっぱい自己否定しなくても大丈夫だって」
千春のクールな笑い声がする。失敗した…逆に怪しかったかも…。
「でも、茜よ!?」
「あんたまでそれ言うか。茜だって普通に誰かと付き合ったりするでしょ。ねぇ」
「あ…いや、」
その質問にはどう答えたものか。迷っている間にもどんどん追撃がくる
「あれだけ男子に興味ないって顔してていつの間に!?」
「ぜんっぜん気づかなかったじゃない!」
「ちょっとどこのどいつ?教えなさいよ」
あ、やばい。なんかもう彼氏がいる前提になってる。
そして騒ぐ絵里子は完全に面白がってる。目がこれ以上ないってぐらい好奇心に輝いてる。
「…ない。ほんとに、ないから」
ああ嘘が…また嘘が増えていく。内心でのたうちまわるあたしを余所に「なぁんだ」と絵理子はつまらなさそうに椅子の背にもたれかかった。
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