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昼休みに中庭で彼氏と仲良くお弁当なんて夢みたいな話なのに、その相手がこいつ。
まだ彼氏がいた試しさえ無いのにどうして好きでもない相手とわざわざこんな目立つ場所で命の危機にさらされているのか。
「もしあたしに惚れてる男子なんかがいたらどうしてくれるわけ」
万が一そんな人がいるとすれば、それだけでロマンスの芽をひとつ摘んでしまうことになるというのに。自分で言ってて寒いけど。
「大丈夫だろ。まずありえなさそうだし――…ってんな怖い顔すんなよ冗談だって」
モノ好きだっていないとは言い切れない、と手を振る切原をあたしは半眼で睨みつけた。
すごく不細工というわけでもないがとりたてて可愛いところがあるわけでもない。たぶんランクは常に5段階中の3。時々普通という言葉はあたしのためにあるんじゃないかと錯覚してしまうほどに、これといった特徴もなく並という言葉がよく合う外見。
自分でも分かっているだけに、こいつに言われるのは悔しい。自分は顔良いからって、くそ。
「だいたいあんたは何で平気なのよ。あたしと付き合ってるって思われたらまずい子とかいないの?」
「いたらわざわざあんたに声かけてないっての」
それもそうだ。
そんな子がいたらその子に声をかけるかまた別の作戦立ててるはずだもんね。
あたしは肩を落として、お弁当のプチトマトを頬張った。
残るはご飯と少しばかりのおかず、それに最後の楽しみにとってあるミートボールだ。
さっさと食べてしまおう。そしてさっさと教室に戻ろう。ずっと死刑台に立たされてるみたいで生きた心地がしない。
「他に良い方法なかったのかなぁ…」
アピールならもっと色々方法はあったはずだ。
こんなことになってしまったのは仁王と柳生の提案によるところが大きい。
他の計画はおいおい立てるとして、まずは一緒にいる時間を増やすことからだと、この『中庭でお弁当計画』が言い渡された。
そいつの前でだけ恋人のふりをすればいいんじゃないかというあたしの提案は、上げたそばから却下された。
なんでも、その場しのぎで取り繕ってもすぐにぼろがでるとのことで。
確かにそれはもっともなんだけど。
くそ、仁王め…。
ご飯に深々と突きさした箸が底にぶつかってがつ、と音をたてる。
計画は柳生と仁王の二人によるものだが、真面目さの度合いが違う。仁王なんてあからさまにこの状況を楽しんでいた。
ふざけた案をいくつも出してきて、それにあの赤いやつがのっかろうとして。柳生と色黒の人が良識的な意見を提げて止めに入ってくれなれば、あたしは今頃登校拒否になっていたに違いない。
こんな計画でも『校庭の中心で愛を叫ぶ』なんていった、おいもうそれ古いだろうとつっこみたくなるようなものや、その他もろもろのとんでもない計画が並ぶ中では一番まともな案だったのだ。
もし仁王の案が通っていたら…と考えると背筋がうすら寒くなる。それで闇討ちなんかに遭った日には、真っ先に仁王の息の根を止めてやろうと思っていた程。
この提案もかなりキツイけれど。
こんなのが毎日続くんだろうか。たぶん切原も同じ事を考えているんだろう。まともに話そうと努めてみても会話はまったく弾まない。そしてその合間には気まずい沈黙が流れ続ける。
駄目だ、耐えられない。
絶対こんなの逆効果だって。一緒にお弁当食べてても全然楽しそうじゃないもん、こんなとこその女子が見たら、こいつらすぐに別れるわって喜んじゃうじゃない。
「つーかさ、あんた少しは愛想よくできねえの」
「あんただってさっきから仏頂面じゃない」
「隣の女がぶすっとしてっからだろ」
「その言葉そっくり返してあげる。だいたいあんた敬語はどこいったのよ。確か上級生に敬語は常識なんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?つーか今さらすぎんだろ。あんたに敬語とか、無理」
「………」
それは…どういう意味かな?
「それに、あんた俺の彼女ってことになってんだから別によくね?」
それはごもっともですけど。しかしこれが頼みごとをした人に対する態度かね切原くん。
口をきく度に喧嘩の火種がちりちりと燻っている気がするのは、あたしだけだろうか。
この組み合わせ、もしかして最高に馬が合わないんじゃ…。
もはや溜め息しかでないあたしの横で、切原が「でも」とこちらを振り向いた。
「マジな話、受けてくれると思ってなかった」
「そりゃ、」
あんな話聞いちゃったら…。
それは大変ねと切り捨てることはできなかった。
多少誇張はあったのかもしれないが、その子の話をしている切原が随分弱りきって見えたせいもあるだろう。
何といっていいか分からず口ごもってしまい、少しの沈黙が流れた時だ、
「…ありがとな」
「え!?」
まさかの素直な謝辞に思わず顔を上げたが、そこにいるのはやはり小憎たらしくて目つきの悪い悪魔野郎だ。
「…なんだよ」
「や、別に…」
そんな睨まないでよ恐いから。
ちょっと、びっくりしただけだし。
でもそんな言葉が出てくるぐらい弱ってたんだろうな、とか思ってしまう。
横暴だったり殊勝だったり、あたしには正直こいつがよく分からない。
口を閉じれば再び沈黙が顔を覗かせる。あ、駄目だ今回は沈黙に長居されると少しばかり気まずい。
一生懸命に何か話題はなかったかと考える。
そんな空気を打ち破ったのは、思いもよらない声だった。
「お、いたいた。んだよ、結構さまになってんじゃん。なぁジャッカル」
驚きのあまりご飯を喉に詰めそうになって激しくせき込む。
うそ…。
若干涙目になった顔で振り向けば、こちらへ近づいてくる二つの人影。赤いやつと、えーと、良い人。
「あぁ、ホッとしたぜ。口喧嘩でもしてるんじゃないかと思ってたんだが」
それは…当たらずしも遠からずってやつだ。
「実際、さっきまでそんな感じだったんスけど」
苦笑する切原。
どう見ても面白半分に覗きにきたとしか思えない赤いのは、ふーんとニヤニヤしながらそんな切原の傍に腰を下ろした。
ん?
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