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保護色が欲しい
 


授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
待ってましたとばかりにざわざわと人の声で溢れかえる教室。
居残り組はいそいそと鞄から弁当を取り出し、購買や食堂に行く生徒達はぞろぞろと教室を出て行く。そんな人たちに紛れ、あたしは弁当片手にこそこそ教室を後にしようとしていた。が、


「茜?」


脱出まで後一歩という所で、恵理子の声に足が止まった。


「お昼、どこか行くの?」

「う、うん。ちょっと食堂行こうかと思って。ごめん」


素早く弁当を後ろ手に隠し、ぎこちなく振り返る。微妙に引きつる笑顔とともに。
実際そうだったらどんなによかっただろう。あらかじめ用意していた言い訳に恵理子は疑問を感じた風もなく頷いた。
嘘をついた事にちくちくと胸が痛むが、そんなことに構っていられるわけもなく。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


手を振る恵理子と千春に手を振り返しながら、そのまま後ずさりで教室を出、


「栗原さん」

「はいぃぃい!!?」


切り抜けた、と思ったところに名前を呼ばれ、あたしの肩は寝込みを襲われた猫さながらに跳ね上がった。
振り向くと廊下には柳生の姿。
どうやら柳生もどこかでお昼を食べに教室を出たところだったみたいだ。本気で心臓止まるかと思った。
どうしたのー?と不思議そうな絵里子の声に、頭だけ教室に突っ込んでなんでもないと返し、あたしは改めて柳生に向き直った。


「すみません、そんなに驚かれるとは思わなかったもので。今からですか?」

「あー…うん。まぁ…」


歯切れの悪い返事を返すあたしに、優しく笑いかける柳生はまるでお母さんみたいだった。もっとも、うちの母はこんなに優しくないけど。


「切原くんを、よろしくお願いしますね」

「……………うん…」


何だろう。何だろうこれ、なんかすごくむず痒い。
思わず身体を掻きむしりそうになるのをぐっと堪え、手を振る柳生に軽く片手を上げてその場を後にした。


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あきゅろす。
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