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心持ち心配げな顔で千春が差し出してくれるポッキーを有り難くいただいていた時だった。


「栗原」

「はひ?」


突然の呼びかけに、ポッキーをくわえた、おそらく相当に間抜けな顔であたしは振り返った。


「はれ?さなら?」


そこには振り向く前のあたしと張り合えるぐらい難しい顔をした真田が立っていた。彼にとって普通の顔がこれだから、そんなこと言っちゃ失礼かもしれないけど。

「…またかぁ」

今日はテニス部率が高い。


「また?」

「ううん、こっちの話。それで、どうかしたの?」


体ごと真田の方に向き直ったその時、後ろからバタバタと騒々しい足音が近づいて来た。


「茜―!!」


猛烈な突進を受けて危うくポッキーを喉の奥に突き刺すところだった。

ついにこの時が来てしまったと、あたしはガッチリ首をホールドしている腕を引きはがして後ろの人物を振り返る。


「お帰り茜!もう、ずっと待ってたんだからね!さあ話してもらうわよ。いったい何の用だったの?どこにいってたの?ていうかいつ知り合ったの?」


やっぱりこうなるのかと、息を荒げて矢継ぎ早に質問を繰り出す絵里子を前に、あたしはファンというもののパワーのすさまじさを改めて思い知った気分だった。


「ま、待って絵里子…先に真田が」

「えぇー」

「む、俺は時間のある時でかまわないぞ」


そ、そんな。

我ながらうまい逃げ方を思いついたかと思ったのに、その望みは一瞬で断たれてしまう。
そこで遠慮なんかいらないよ真田!十中八九絵里子が睨みを利かせたせいなんだろうけど。
同じテニス部なのにこの差はいったい…。


「不憫だね」

そんなことは欠片も思っていなさそうにくくっと千春が笑う。

「あはは…。…ゴメンね真田」

気にするなと言いつつも、心なしか何時もより小さく見える真田の背中を見送りながら、あたしは小さなため息をつくのだった。

今日はなんだかよく迫られる日で。テニス部にも縁がある日で。

でもって、すごく疲れる日だ。


そしてもちろんのことながら、あたしはこの日、切原が取りつけて行った勝手な約束を全力ですっぽかした。



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