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日常の色
 

「や、お帰り茜。」


教室に帰り着くと、予想では真っ先に飛びかかってくるはずだった絵里子の姿が見当たらず、一人で雑誌を読みながら気だるげにポッキーをかじっていた千春が冷静に迎えてくれた。


「ただいま…。…絵里子は?」

「今は彼氏のとこだよ」

「…そっか、戻ったら真っ先に問い詰められると思って覚悟してたのに」

「うん。残念がってた。彼氏との約束より茜が帰ってくるの待ってたいって」


煙草を出すみたいにして、かっこよく箱からポッキーを取り出しながら言った千春の言葉に、あたしは乾いた笑いを零した。
絵里子なら本気でやりかねないあたり不憫だ彼氏さん…。


「何か、ちょっと見ない間にやつれた?」

「うん…まぁいろいろあって」


ふらふらと自分の席に戻って机に突っ伏す。
前の席の千春が椅子ごと身体を反転させた。


「何の用だったの?仁王のやつ」

「あー…ええと、なんていうか…。毒か薬かっていったら、毒にしかならない用だった…」


いやもう毒なんて可愛らしいものですらないかもしれない。だってもうあれ、あのノート。
絶対中見られたよね。だって知ってたもん。

もうやだ。恥ずかしくて死にそう…。


「ふうん」


自分で訊いたわりには興味なさそうな相槌を打つ千春の口へ、また一本ポッキーがかりかりと吸い込まれていく。

千春のこういうとこ、良いなって思う。興味が薄いのか、あえて深く追求しないでいてくれてるのかはいまいち掴めないけど、助かる。
絵里子だったら、こんな場合は間違いなく質問攻めだ。
うん。きっと根掘り葉掘り事細かに聞き出されることだろう。

「うー…ありがと千春ー」

「うん」

「何のことかわかってる?」

「全然」

「だよねぇ」


あたしも何がありがとうなのかいまいちよく分かってない。とりあえず色々ありがとう。なんかちょっとだけ気が楽だよって話かな。


ぐしぐしと目元をぬぐうあたしの頭を、千春の手がなだめるように叩いてくれる。
あぁもう、男前すぎるよ千春…。

にしても、なし崩し的に協力することにされた訳だけれど。いや断じてあたしは了承してないんだけれども。


でも、彼女のふりって具体的にはどうするんだろ。

切原と……いちゃいちゃ?

うわ、なんか今すっごい寒気した。そんなの想像できない。
そうだ。まだちゃんと承諾はしてないんだから、しっかり話し合えばなんとか………なる、かな…
ていうか、しないと。あたしの平和な学園生活のために。


「どした?」

「いや、うん。なんか…泣きたくなってきたなぁと思って…」


正直、どんなに必死に説得しようとしても相手が聞く耳持ってくれない気がするのは何でだろう。


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