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「………」

「………」

「…それじゃ」



沈黙が心に痛かった。

死にそうなぐらい恥ずかしい。いくら空いてるからって、なにもこのタイミングで鳴ることはないじゃないか。
今のあたしは猿顔負けなほど真っ赤な顔をしているに違いない。

やっぱり誰か穴掘ってください。特大サイズでお願いします。



「栗原茜」


とぼとぼと立ち去ろうとしていたら、切原が何かを放った。
とっさに受け止めたそれは、購買のあんパンだった。


え?何?


目を丸くして手の上のパンを見つめていると、まぁ食え座れ、とヤツがぺしぺしコンクリートを叩く。

も、もらっていいのかな…。
今から購買に行っても、昼ご飯にありつける可能性は低い。貰えるのはとってもありがたいけど、これって切原のお昼だよね。余分に買ってきてたわけじゃないだろうし…。

ちら、と様子を窺うと、切原はメロンパンの包みを開けているところだった。

考えてみれば、三人ともお昼休みが始まってから十分も経たない内に顔を突き合わしてたわけだし、お昼を食べている人がいるわけない。
お腹を空かしてたのはあたしだけじゃなかったのかも。

一時休戦なのか、切原は黙々とメロンパンをかじっている。

なんだ…ちょっとはいいとこあるじゃん。


「…いただきます」


ありがたく頂戴することにして、あたしも包みを破いてあんパンを頬張った。

甘い…。

ちょっと、あたしの中で切原の株が上がった。
実は悪魔ほど酷いやつじゃないかもしれない。追い詰められたワカメがどうしていいか分からず暴走したと思えば、可愛いものかもしれない。

そうだよ。誰だって窮地に立たされれば多少強引になってもおかしくないよね。
女の子に好かれて困ってるなんて、いかにも勝ち組ならではの悩みが窮地なのかどうかは置いといて。


「食ったな」


一瞬、視界の端に黒いものがちらついた気がした。


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