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とりあえず甲高い声に耳を塞ぎながらその指が示す方へ目を向けるが、どれが絵里子の言う仁王クンなのかさっぱりわからない。


絵里子はものすごくミーハーで、スポーツをやってるかっこいい男子を見るのが大好きだ。
しょっちゅうサッカー部やら野球部やらの練習を見に行っては、誰のどこがかっこいいんだとか、こういう仕草が好きだとか、そんな土産話を持って帰ってくる。言うまでもなく、かなりの情報通。


本人は胸を張るが、その反面絵里子の彼氏はよく頭を痛めている。



「あんた、そんなことばっか言ってるとまた彼氏が泣くよ」

「だってかっこいいんだもん〜!いいじゃないキャーキャー言うぐらい。これは目の保養ってやつよ」


呆れる千春に、ピシと人差し指を立てて絵里子が得意げに鼻を鳴らした。


そんな絵里子のおかげで、よく誰が何をしただのという話を聞かされているあたしの頭の中には顔に名札だけ貼りつけたのっぺらぼうが大量発生している。


それはきっと千春も同じだろう。彼女もどちらかと言えば男子にあまり興味がない。
中身がそこらの男子よりよっぽど男らしいから、いい相手がいないだけかもしれないけど。


「やっぱりいいなぁ。仁王クン。さすがはあのテニス部レギュラーよね。」



開いた窓から、さぁっと風が吹き込んでくる。


テニス部…。その言葉になぜか浮かぶ切原の顔。

やめて。頼むから今は消えていて。


うっとりと窓の外を見つめる絵里子の視線を追いかけると、外を歩いていた一人の男子生徒とばっちり目が合った。


その途端、隣の絵里子が、ふわあ!だか、はうあ!だかの奇声を上げた。ついでにあたしも口をあんぐり開けた。


……パッ、パンツの人じゃん!!



「ちょっと茜!目!目あった今!仁王クンがこっち見た!!」

「え…えぇ!?」


大興奮な絵里子にがくがく揺さぶられる。
いやあたしも叫びたいぐらいだ、だって今あの人が目の前に、


「あんたねぇ。そりゃそんなに見てたら相手も気付くんじゃない?」

「うそ、こっち来る!」



千春の声も届かない様子ではしゃぐ絵里子の声に、あたしは目を瞠った。


真っ直ぐこちらへ歩いてくるのは銀髪の男子で、その男子が絵里子が言ってた仁王クンで、なんか仁王クンはテニス部らしくて、

そして、

あろうことかパンツの君なんですけど!



こんなとこで思い出させる!?きれいさっぱり記憶から末梢してたってのに!



「あれ、あいつ茜のこと見てない?」

「うそっ、茜って仁王クンと知り合いだったの!?」

「えぇっ!?そそ、そんなまさか!」



まさかパンツを見せた間柄ですとは言えない。


それでも、彼と私の接点なんてそれぐらいのはずだ。なのに一体何で彼はこっちに歩いて来るの!?


絵里子のとんでもない言葉にぶんぶんと首を横に振っている内に、その男子は軽々と窓枠を乗り越え、あたし達の前に降り立った。


パンツの君=テニス部=切原関係?。


その図式が頭の中で成立した瞬間、あたしはさっさと逃げ出さなかったことを後悔した。



「そっちじゃなか」


いやこっちだよ!購買ってこっちだよ!!


彼はあたしの腕を取るとうむを言わさず購買とは逆の方へ歩き始める。
どこに向かっているのかは…たぶん想像通り。
振り返らなくても、後ろで絵里子が騒いでいる様子が目に浮かんだ。


歩幅の大きさが違うため半ば引きずられるようにして連れられながら、あたしは戻ったら二人になんて説明しようかということばかりを考えていた。



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