おもいびと
◇蓮の棘4
本当は、ずっと後をつけていた。
母さんが、家から海斗の着替えを持ち出して出勤するのを見て。
病院で海斗に縁のある人を考えたとき。
おれには、柊ちゃんの事しか思いつかなかった。
柊ちゃんの住所は知っていた。
連絡先も知っている。
でも。
もし、自分の予感が当たっていたら。
おれが会いに来たなんて事を、柊ちゃんに知られる訳にはいかない。
だから、海斗の後をつけて確信してから、独りになる時を待っていた。
おれはもう中坊じゃない。
本当の意味でのガキでもない。
かと言って大人でもないから、聞き分けなんか良くない。
海斗。
海斗。
見つめているだけで。
背中がゾワリと粟立って、不意に顔が熱くなる。
「──海斗」
喉の奥の痛みと共に、おれの制服に涙が零れ落ちた。
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