おもいびと
◆うつろい10
食後に、3人で洗面台に並んで歯を磨いた。
歯ブラシ付きの焼き肉屋なんて初めてだ。
さすがの百瀬さんらしいチョイスだな。
この場はなぜか百瀬さんの奢りだった。
カードで支払いを済ませるスタイルが憎らしいほどカッコいい。
薄給の癖に、なんだってこんなに羽振りがいいんだ?
副業してるって聞いたけど、営業が副業なんだろうか。
何にせよ、謎な人だ。
駐車場で浮きまくっているBMに乗って、柊司さんの家に帰る。
百瀬さんは、このまま柊司さんをお持ち帰りしたかったみたいだけど『ごめんなさい』……と振られていた。
誕生日にひとりで過ごさせたくないと柊司さんはおれを思い遣ってくれる。
だけど。
さんざんご馳走になっておきながら、それはちょっと酷なんじゃないかっておれですら思うし。
おれ、別に寝るだけだからひとりでいいし……って返したら、柊司さんは顔を真っ赤にして、おれを非難するような目で見つめてきた。
え?
おれ、なんか間違ってた?
柊司さんは、連休なんだから明日に……って引いてたけど。
百瀬さんは強引に押し切った。
そうか……。
明日から二連休だもんな。
そりゃあお持ち帰りしたいだろう。
百瀬さんは、マンション前でおれだけを車から降ろして。
肉食丸出しな笑顔をおれに残して、柊司さんを拉致って行った。
おれは、ふたりから大きなプレゼントを押し付けられて、ただ見送るしか出来なかったけど。
去り際の柊司さんの百瀬さんへの言葉で、生々しい真相を知った。
『あんなに精力つけた君との夜なんて、恐ろしすぎるよ』
聞いているおれの方が恥ずかしかった。
そんなに凄いのか……?
アイホ仕込みのあの身体だもんな。
柊司さん。
よく壊れないで持ってるよな。
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