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おもいびと
◆懺悔3





おれは彼の元に逃げ込んでいた。

何かを相談したかった訳じゃない。

ただ、彼の傍が一番安心できるんじゃないかと感じて、おれは彼に縋った。

「家出した未成年だ。親に報告くらいしておかないとね」

少しだけ同情を見せる彼は、決して迷惑そうな顔をしない。

母を大切な友人だと言う。

大切な息子さんをお預かりしているのだから……と、それ以上何の詮索もせずおれを受け入れた。

ただ、今夜は少しだけ彼の表情が違う。
おれとどう関わっていいのか考えあぐねているようで。

母と話したと言う事は、おれの事情を知ったと言う事なのだろう。



呆れられたかな……?



おれは少しだけ落胆した。



「遠慮しないでいいよ。色々と……整理出来るまでいるといい」

彼はペットボトルをテーブルに置いてリビングから出ていった。


3LDKの広い間取りの部屋に、彼はひとりで暮らしている。
独身20代の住まいにしては広くて整然としていて。

医者ってのは皆こんなに几帳面なのだろうか。

おれは初めはそう思っていた。

けれどそれは違って。
独りでいる彼は物を持たない傾向にあることに気付いた。

必要最低限の生活必需品。
書斎にしている室内には専門の医学書だけが並んでいて、水回りも生活感がまるでない。

この何もない部屋で、どんな生活をしていたんだろうと考えてから。

彼の底知れない孤独にやっと気付いた。



物に執着しない。

そんなひとは、多分ひとにも執着しない。



若しくは、執着しないように努めているのだろうか。



今の彼には恋人がいる。

なのに、どこか冷めているような。

恋人に執着していながら、全てを傾けないように自制している彼がいる。

まるで、いつかは避け難い別離があると心の奥深いところで覚悟しているようで。



おれと彼は似ているのかな……と気付いた。



だから安心できるのだとも。

自分の心情を理解した。



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