おもいびと
◆原罪2
「どうした?」
訊ねても陸は答えない。
ただ。
抱きしめてからさらに辛い表情を見せたから。
理由はおれにあるのだろうかと思えた。
確かめるために頬にキスをすると、陸は驚いて身体を逸らして。
おれとの距離を取った。
おれは、底知れない喪失感に襲われた。
陸がおれから離れようとしていると知っただけで。
そんな当たり前の事を実感しただけで。
おれは思った以上に落胆していた。
「もう……ひとりで大丈夫なのか?」
訊ねると、陸の肩がピクンと震えた。
驚いたようにおれを見つめて、首を横に振る。
「──ちが…………」
見る見るうちに目許と鼻先が赤くなって。
陸は大粒の涙を雫し始めた。
突然の反応に驚いたおれに、陸は縋るように抱きついて来た。
「海斗……海斗……。おれ、海斗の傍にいたい。……頑張るから……傍にいたいから」
椅子に座ったまま、ギュッと抱きついて来た陸は。
立ち尽くすおれを見上げた。
「──嫌いに……ならないで」
おれにとってはあまりに唐突すぎて。
意味がよく理解出来なくて。
陸が必死に縋ってくるから、おれは少しだけ混乱していた。
「陸?」
強い力で抱きついてくる陸をはね除ける事など出来るはずもなく。
迫られて、寄せられる唇を受け入れた。
陸から与えられた口づけは、信じられないくらい甘くて。
気が遠くなりそうな程、強烈におれを煽った。
血の流れが速くなるのが自分でも分かる。
のぼせた身体は否応なく反応して。
さもしい自分が悔しい。
なのにおれは、椅子から立ち上がった陸に抱かれて歓びを感じていた。
「海斗……好き。……大好き……海斗」
何度もおれを好きだとささやいて。
何度も唇をついばんで。
そして、おれを抱きしめる。
「──海斗が好き……」
涙に濡れて震える声が、甘くおれを誘って。改めて告げられるその意味を考えて。
おれは、言い知れない不安を抱いた。
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