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おもいびと
◇穢れなきもの8





暖かくなって、カラフルな色彩が街を一斉に飾る季節がやって来た。

梅も桜もクロッカスもチューリップも。

大通公園の花壇にはパンジーや桜草がびっしりと植えられて、変わらない風景が色を取り戻す。

これを初めて目にした人は、季節感を無視したこの光景に驚くに違いない。



制服にはまだ慣れないけど、学校の教室とクラスメイトに馴染んだ頃には、おれはよく上級生から声を掛けられるようになっていた。



「寺崎の弟ってオマエ?」



どういう意味か分からなかった。

ただ、その視線は決して単純な感情じゃないって思える色が見えて。

おれに対して何かをする訳でもなく、ただ、おれをもの珍しそうに不躾に見てから、意外そうな表情を残して去って行く。

そんなひとたちは、決まって慌ててズボンを上げてトイレから出てきたみたいな乱れた服装をしていて。

トウモロコシのひげみたいな毛の、根元だけが黒くてトラみたいな模様になっている髪とか。

襟足だけがやたら長い髪とか。

凄く細い眉毛とか。



奇抜な上級生が多かった。


そして、声を掛けてくる上級生の傍にいる友達らしき人は、皆一様におれに関わる事を止める。



やがて、そんな上級生はひとりも現れなくなった。



海斗の卒業間際に、理由が分かった。

おれに絡んだ上級生は、全員もれなく海斗にボコられた……って。

絡んできた上級生と同じ格好をしたクラスメイトが、したり顔で教えてくれた。



本当の理由なんて分からないまま一年が過ぎて。

学校では口を利くこともなく。



おれの想いを置いて。





海斗は中学を卒業していった。



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