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おもいびと
◇WAY OF LIFE16









 三月の終り。

 おれも。
 おれ自身の力をためるための旅に出た。



 きっと、海斗に逢える。
 十五年後に、海斗は必ず帰ってくる。

 願い続ければその想いは現実になる。

 おれは、そう信じたい。



 大好きだった人たちに別れを告げてひとりで向かった空港では、大好きな先輩がおれを待っていた。

 おれに本当の音楽を教えてくれた諏訪先輩。そして、いつも諏訪先輩と一緒にいる御堂先輩。

 あの夜。
 先輩がおれを呼んでくれなければ、こんな人生の選択肢なんて考えも及ばなかったと思う。

「カズノリに頼まれた。……おれも見送りしたかったし」

 カズ先輩……。
 最後まで優しいんだね。

 きっとそれが、ずっとブレない先輩の在り方なんだろう。

「トーマスのトコに行くのか?」

 諏訪先輩はきっと店長さんから聞いたんだろう。

 トーマスさんのバンドとセッションした時から、おれと先輩たちの意識は明らかに変わった。

 音楽への情熱も、快感も。
 彼らとのプレイが教えてくれた。

「はい。店長さんには色々相談に乗ってもらって……。ありがとうございましたって、伝えてください」

 少しでも笑顔で別れたい。
 ちゃんと声を出さないと、胸が痛い。

 けれど、先輩はそんな誤魔化しはしない。

 沈んだ気持ちを隠しもしない表情が意外過ぎて、おれはこらえていた涙を零しそうになる。

「ニューヨーク。……遠いな」

「はい」

「辛いことがあっても、すぐには帰って来れない」

「多分、その方がいいから……」

 先輩は「どうして?」って表情。
 こんなに気持ちの距離が近い人だったんだと改めて感じる。

「でも、ちゃんと帰って来ますから。本物の音楽に触れてきたい……そう思えたから」

 先輩たちの辛さも、嬉しそうな姿も。
 誰も知らない秘密を知っている優越感があった。

 本当に、短かい間だったけど近くにいた。

「だから、こんなきっかけをくれた諏訪先輩には、本当に感謝してるんです。ありがとうございました」

「おれの方こそ、色々世話になった」

 諏訪先輩はふんわりと笑顔で応えた。

「嬉しかった。……ありがとう」

 こんな笑顔は奇跡だと思う。

 以前はおれを見ていない冷たい表情だった。
 それが、今はしっかりとおれを見てくれて笑顔をくれる。

 そんな信頼が嬉しい。

「元気で。トーマスたちによろしく伝えて」

「はい……じゃあ」

 挨拶を残して、搭乗待合室に行こうとした。
 すると、それまで黙っていた御堂先輩がおれを引きとめた。

 なんだろうと思って振り向くと、真剣な表情でおれを見つめていた。

「待ってるから……。壊れたりしないで、必ず帰って来い」

 御堂先輩がおれの空っぽを見抜いたみたいだ。
 このひとはやっぱり鋭い。

「はい!」

 おれはありったけの元気を見せた。

 見せられたかな。ちゃんと。



 壊れるつもりはない。
 おれは、海斗に会うんだ。



 今はまだ。



 海斗との思い出が詰まったここが辛いだけ。



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あきゅろす。
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