おもいびと
◇WAY OF LIFE12
春分の日。
夜になってから先輩を呼び出した。
おれからの呼び出しに戸惑っていた先輩は、それでも会うことを約束してくれた。
外で会うときは、いつも待ち合わせ場所だった楽器店。
合流してから同じビルのレストランに入った。
そこでおれは、先輩にこれからの事を伝えた。
おれはあれから、ライブハウスの店長さんのつてで海外留学を決めた。
早急だったけど、両親を説得してニューヨークに行くことにした。
準備だとか時期だとか。完璧にしてやりあげようと思ったって、そんなのはいつまでも迷っているだけの言い訳にしか過ぎないから。
もう少し考えてからとか、会話に不自由しないくらいに話せるようになってからとか。そんな忠告には耳をふさいだ。
本場の音楽に触れて。自分がどこまで成長できるか試してみたい。
一年でも二年でもいい。ここで迷って小さくなっているより、本物に触れて自分の本当の力を知りたい。
ライブハウスに何度も通って。店長さんには無理を承知で頼み込んで。ニューヨークへの橋渡しをお願いした。
海斗は、自分の力だけで理想の自分に成長するために、どんなに辛くて不安でも独りで旅立った。
だから自分も。
その場所に飛び込んでしまえばいいんだって決意した。
あの日。
訳も分からないまま呼び出されて。
心の準備だとか練習だとか。そんなものは全く無用の状態でステージに上がって。
けれど、それでよかった。
考える時間なんて無くてよかった。
考え込んでしまったらきっとおれは動けなくなってしまう。
だから、まず行ってみようと思った。
バンドの付き人でも雑用でも……出来る事は何でもやりながら、おれはおれのやり方で勉強してくる。
だから
だから……
これで
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