おもいびと
◆無常8
式が終わって、クラスの連中と昇降口に向かう途中、それまでナリを潜めていた陸が突然目の前に現れて、おれは行く手を遮られた。
おれは皆に置いて行かれて。おれを追い越していく連中は、卒業祝賀会と称した飲み会に遅れるなと釘を刺して校舎から消えていった。
ほとんど誰もいなくなった廊下で、陸はおれの手を取って色んな感情が綯交ぜになった視線で見つめる。
「どうして……」
重く閉ざしていた唇から、今にも泣き出してしまいそうな震える声が零れた。
そうか。
おれがここから去って行く事を、知ってしまったんだな。
隠していた事は本当に悪かったと思う。
相談もしないで進路を決めてしまったことも。
けれど、そうでもしないと両親に隠し通す事ができないと思えた。
おれは本当に弱い。
今のおれがおまえを守り切れるかと問われれば、正直お前の人生を背負うほどの力なんて無いに等しい。
だから、今はまだおまえを束縛できるなんて思わないようにしないと。
だから、自分の力で道を進むための努力をしないと……。
おれには、そんな決意と覚悟が出来上がっていて、情熱だけで走り出して共倒れになるくらいなら距離を置いた方がいいと思えて。
例えふたりの行く末が見えなくても「今はまだ早すぎる」と、おれ自身が陸に踏み出す事を戒めていた。
「……帰ろう。海斗」
陸の冷たい手は、おれを離してはくれなかった。
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