おもいびと
◆無常6
卒業の日を迎えた。
これで全てが終わる。
柊司さんとは昨夜のうちに別れの挨拶をして、それまで生活を共にしていたマンションを出てきた。
優しい彼は、おれのこれからの人生を案じながら、いつまでもおれを待っていると約束してくれた。
そして、約束しろと言われた。
必ず帰ってこい……と。
大切なひととの別れは辛い。こんなに辛いものだとは知らなかった。
彼と共に過ごして、おれは変わった。
ひととの関係に焦がれて、執着出来るようになった。
それは、繊細な温かさをくれた彼のおかげだと心から感謝して。おれは決して違えられない約束を残して部屋を出た。
見送りは断った。
彼はおれの旅立ちのために手を貸してくれた。これまでの経過があるから、心境が複雑すぎてどう接していいか分からない。それは向こうも同じことで、母と彼との関係に波風を立てたくないおれにとっては、彼とはここで別れたほうがいいと思えた。
最低限の手荷物を持って、駅前のホテルに部屋をとった。
私物は既に新しい住所に送ってある。向こうに着いてからそれを受け取る。
そんな手筈が整って、明日にはこの街を出る予定だ。
春だというのに。
まだ雪の残る、この街を。
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