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おもいびと
◇時つ風15





ピザのピースを手に取って口に運ぶ。
その先輩の表情は、なんだかひどく色っぽく見えておれを挑発した。

熱に溶けて伸びるチーズを、舌で迎え入れるようにして咥えていく。
先輩のしぐさはただの食事以外の何物でもないのに。その口でされたことを思い出してしまって心臓が痛い。



やばい。
あそこが疼いてきて、たまらない。

ああ!!もう!変なこと考えるんじゃなかった。



ホントにどうしていいか分からないほど興奮して、真夏みたいに体が熱い。

不意に先輩の手が伸びてきて、おれに触れた指先が唇からソースを拭い取った。
その親指を自分の口元に持ってきて舌先で舐める。

挑発されてるって分かった。
すごく色っぽい目でおれを見る先輩の表情は、フェロモン全開の魔性の何かみたいに思えたから。
今までとは違う視線を向けてくる先輩は、おれをそういった対象として見ているに違いない。
たぶん、女の子に対しての先輩は、こういう面を見せるんだろうなって思えた。

興奮しきったおれは、呼吸が速くなってそれを隠そうとするから苦しい。

そんなおれを見て、先輩は表情を緩めて、おれの頭を優しく撫でてくれた。

「どうして……。泣くほど嫌?」

先輩はおれを誘惑して、おれの本当の気持ちを暴こうとしているみたいで。
その質問に、おれは何も答えられない。
またおれは泣いていたみたいだ。



分からない。
どうしてかなんて分からない。
考えてもきりがない。



おれは、欲に駆られて。
目の前にぶら下げられたごちそうにありつきたくて、甘えて鼻を鳴らしている犬みたいだ。

「陸は、トキオが好きなのか?」

「……ちが」

「でも、誰か好きな人がいる」

悔しいけど、先輩はおれの気持ちを見抜いてる。

好きな人がいるのに、こうやって別なひとと会っている不埒さを知って。
それでもなお、おれをかまう事を止めようとしない。

「抱くけど……いい?」

頭の上から温かくて大きな手が降りてきて、そのまま頬を包むように触れられる。
その熱が、裏腹におれの心臓を冷たく抉った。

「好きな人が……」

「それとこれとは別……だろ?」

言い当てられて、何も返せない。
情けなく顔が歪んで、いよいよ泣き顔になってゆくのが分かった。

「――欲しがってる」

「いじわるだ……先輩」

「その気になって欲しいだけだ。……煽られた?」

クスクスと悪戯っぽく笑っておれの不埒を楽しんでいるようだ。

優しくおれを掻き乱す。
甘い誘惑。

「陸も、欲しいよな?」

立ち上がった先輩はおれに迫ってきて、首筋を吸って甘く噛んだ。

思わず声が漏れて、先輩におれの欲情が知られる。



こんなふうに振り回される自分は初めてで。

おれは、いとも簡単に先輩の手の中に落ちてしまった。



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