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おもいびと
◇時つ風14






不意に、先輩がおれの手を取った。

突然の事に呆気にとられたおれは、先輩に連れられて地下鉄駅へと下りて行く。



先輩は当たり前におれの分の切符を買ってホームに向かう。
電車の行先は学校方面で、そこは先輩の家の方向でもある。

すぐに到着した電車に乗り込んで、促されるまま先に席に座らせられて。
先輩は発車してからおれの隣に腰かけた。

車内では、並んで座席に座る自分たちの姿が、真っ黒い窓に映っているのが見えて、なんだか不思議な感じがした。



先輩は、無意識におれを守ろうとする。
エスコートって言うのかな。

態度の端端にそれが見えて。
違和感はないけどなんだか落ち着かない。



いつもの慣れ親しんできた先輩との光景が、今はもう違って見える。



意識した途端に「おれが守ってやらなきゃ」って使命感みたいなのに駆られるって話を聞いた事がある。

男子にありがちな女子への責任感とか。
『おれの宝物』的な感覚とか。



ノンケな先輩からはそんなオーラが湧き出てきていて、やっぱりおれの事をオンナとして見てしまっているんだろうか……と感じる。



そういうのって、どうしようもないのかな。



先輩の家は大きなマンションで、クラブを経営している両親は夜遅くまで仕事で不在がちらしい。

なんとなくうちと似てるなって思ってた。



今夜ももちろん両親は仕事だから、家には先輩ひとりで。



おれは女の子じゃないから、連れ込まれた……って意識はないけど。
結局この状態は連れ込まれたって事なのかな。



いや、ちょっと待て。
連れ込むってのは『そういう事』がないと言わない言葉だったと思うから、この場合はそうじゃなくて…………

「適当にくつろいで」

そう言い残しておれをリビングに置いたまま、先輩は部屋を出ていく。
ぐるぐる考えながら言われた通り黙って待ってるおれ。



しばらくするとキッチンから冷蔵庫の扉を開け閉めする音が聞こえてきた。



きっと食料を物色しているんだろうな……って思えて。

先輩が何かを持ってくるんじゃないかって期待している。



こういうのも下心って言うのかな。



そういえば少しお腹空いたかなって感じた。
母さんが作ってくれた夕飯を、あまり食べないで出てきてしまったから。



チーズのすごくいい匂いがしてきて、先輩が持ってきたのはバジルとトマトの特性ピザ。

美味しそうなそれを目にした途端に、おれの目の輝きが変わったに違いない。

先輩は優しい笑顔で、おれを食卓テーブルに誘ってくれた。

「どうぞ」

無糖のアイスティーを大きめのグラスに注いで、先輩はおれの前に置いてすすめる。

「いただきます」

おれはアイスティーを飲んで、ピザを口に運んだ。



一緒に食事をすることなんて珍しくもない。
けれど、緊張はしないけど、この空気がなんとなく気まずいような気がして落ち着かない。

先輩はいつもと変わらない静かさで、ピザを口に運んでいる。



こうやって意識して、改めて先輩を見てみると、本当にカッコいいひとだなって思える。



諏訪先輩は綺麗だと思った。

金色の髪に青い目。
整った顔立ち。
人形みたいな白い肌。

女の子がキャーキャー言うのも分かる。
童話に出てくる王子様みたいだから。



先輩は、男くささがあって野性的な感じ。
黒髪も黒い瞳もクールでミステリアスだ。

でも、清潔感があって……。



あれ?

おれ、なに考えてんだろう。



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あきゅろす。
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