おもいびと
◇時つ風13
夜になって、先輩からメールが来た。
これから会えるか……って。
……まあ、そうだよね。
色々中途半端で、放置ってわけにはいかないよね。
先輩が待っていた楽器店に着いたのが夜八時を過ぎていて、街は次第に大人の時間になっていた。
おれが着くと、先輩はすぐにおれを連れて店を出た。
私服の先輩は大人っぽくて、歳がひとつしか違わないなんて思えない。
全体にモノトーンのコーディネートが嫌味なく似合っている。
ファー付きの襟のロングコートをさらりと着こなす長身もカッコいい。
そんな風に、今までとは違う目線で先輩を見ている自分に気付く。
まるで、値踏みをするように。
……嫌な感じだ。
我ながらそう思えた。
雪像の消えた夜の大通公園を歩きながら、先輩は何も言わない。
言わない。というか……言えない?
そんな雰囲気だ。
「……チョコ。ありがとう」
やっと口を開いた先輩からの言葉は、おれがすっかり忘れていた事実だった。
そういえば、何も言わないで先輩にチョコを押し付けただけだった。
「あ……はい」
「美味かった」
いつもと違って、会話が続かない。
元々会話が弾むって方じゃなかったけれど、この空気はなんだろう。
何だか、プレッシャーみたいなのを感じていたたまれなくなってくる。
「あ!ああ……諏訪先輩もそう言ってくれました」
「トキオ?」
おれは、こんな重たい雰囲気をなんとかしたくて、思わず共通の交友関係の話題を振ったけど、それが何だかさらに気まずい雰囲気にしてしまったようで、先輩は少しだけ驚いたように反応した。
「あ……や、あの」
しどろもどろなおれの態度はたぶんみっともない。
もしかしたら、先輩はあのチョコをそういう意味で受け取っていたかも知れないと思うと。
だんだん罪悪感と言うか、シャレにならない自分たちの危うい関係を突き付けられた感じがして。
どうしていいか分からなくなって、歩いていた足が止まってしまった。
先輩の足も止まる。
ふたりして歩道に突っ立って。
視線を合わせられないおれを、先輩はきっと複雑な心境で見つめているに違いない。
予想して先輩を見ると、やっぱり複雑な顔をしておれを見つめていた。
ふたりの吐息が白く凍って、視界を揺らめかせる。
どうしてだろう。
おれは、胸が絞られるような、重苦しい痛みを覚えた。
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