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おもいびと
◇時つ風11





週明けの月曜日。



先輩に会って、チョコレートを手にしたまま、どう挨拶したらいいのか分からなくて、全然言葉も出なくて悩んでいたら、そんな悩みも消し飛ぶような事件が起きた。

バレンタインデーの告白をめぐったらしい放課後のトラブルは怪我人まで出てしまって、それがおれの知っている人だったから、何とか助けたいと思って行動しているうちに、チョコを渡しただけで先輩とは離れてしまって。



要請した救急車の隊長が父さんだったり。

搬送先の看護担当者が母さんだったり。



その日は結局成り行きで家族と過ごす事になってしまったけど。
おれは、その場にいて良かったのかもしれない。

怪我をしたのは海斗に似ていると思っていた諏訪先輩の……彼氏の御堂先輩。
ふたりがそんな関係だったなんて、この時初めて知ったんだけど。

おれが諏訪先輩に付き添っていたから、御堂先輩が手術室に入ったのを見送ってから母さんが食事に誘ってくれて、病院の向かいにあるレストランに連れていかれた。



母さんがどうして事情を知ったのか分からない。

ただ、色々と思うところを吐き出した諏訪先輩に、母さんは優しかった。



母さんは諏訪先輩に何かを伝えたかったようで。



同性同士だからと言って、世間はそれが悪いと言う。
『悪い事』って言われている事って、いったい何が根拠で悪いと言われるんだろう。
そもそも世間一般で当たり前と言われて『善し』とされている事って、本当に良いことなんだろうか。
深いところの事実を暴いたら、もしかしたら真実は全く違うのかもしれない。

本来あるべき人としての姿は、実はそんな上辺だけの問題じゃなくて。
無意識の、意識しては到達しえない深淵に隠されているんじゃないか……って。

意味深すぎて、おれには何だかよく理解できなかったけど。

どんな関係であれ、自分の快楽だけを追い求めて、相手を思い遣れず優しく出来ないなんて、異性も同性も関係なく相手を傷つけてしまうって事だけはわかる。



大切なのは、思い遣る心。

そう指摘する母さんの言葉で、諏訪先輩が涙を雫し始めたから驚いてしまった。



ずっと悩んでいた。

先輩はそうこぼした。



自分たちは、世界から追放されるモンスターみたいな扱いを受けかねないんじゃないかとか。

そうなったら御堂に申し訳ないとか。



あんなに仲がいいふたりだったのに、そんな悩みを抱えていたんだな……って初めて知って。

何事にも揺らがないように見えた諏訪先輩が、御堂先輩の事となると冷静じゃいられなくなるんだなって思ったら。

おれは酷く切なくなって、もらい泣きしていた。



海斗はきっと、この諏訪先輩みたいに考えて悩んでいるに違いない。

幸せに……と願いながら、その幸せが何なのかまだ迷っていておれとの距離を置いている。



「――形はどうあれ人を好きになって。優しさをあげたいと願って……。分かり合いたいと寄り添う。その気持ちが大切なのよ……」



母さんの言葉は、諏訪先輩だけにではなくて、たぶんおれにも向けられていた。

そして、おそらく、母さん自身にも。



衝動で相手を傷付けたり、追い込んだり。
あるいは間違いを正すことを放棄したり。

そんな無責任で曖昧な態度で接するのではなくて。
相手の立場と想いを大切にできるようになれたら……。

それがきっと、本当に人を愛するという事なんだろうな……って。



おれは改めて、いろんな人の思いと立場を考えて。



そして、海斗に対しての気持ちを、どうやったら『愛』と言うものに進化させられるのだろうと、途方もない事を考えさせられた。



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