おもいびと
◇時つ風9
無かったことに……とか。
忘れよう……とか。
結局そんな風にはならなくて。
お互い、何となく自分の感情に納得して、それまで通りの先輩後輩としての関係のままで。
変わったのは、その関係にセックスが加わっただけ。
先輩はとても優しくて、本当はこんなふうに傍にいる人と付き合っていった方が幸せなのかな……とか思えたりして。
自分でも、少しだけ気持ちが揺らいだのが分かっていた。
かえって謝ったのがおれを傷つけたんじゃないかとまで言ってくれた先輩は、今度は謝った事を謝って。
おれの頭をいつものようにガシガシと撫でてくれた。
そんな朝、酔いの勢いもないのに、裸のままだったおれたちは、朝から元気そのもので。
興味を捨てきれないまま、まるでおはようの挨拶でもするみたいに、性懲りもなくまた抱き合った。
おれの上で、息を乱しながら。
先輩は「ヤバい……理解してしまいそうだ」と呟く。
あくまでもノンケの感想だな……と思ってから、おれ自身はノンケじゃなかったんだなと知ってしまった。
先輩は優しくて、抱きしめる腕も温かかったのに。
終わった後に、一度もキスをしていなかった事に気付いた。
これが、感情よりも快楽を求める男同士の関係って事なのか。
恋人じゃない。
そうだ。
そんな風に関係を否定したのはむしろおれの方だったのに。
また、理由もわからないまま泣いていた。
そして、やっぱり海斗からは離れられない自分の想いが嬉しくて。
会えない事が何より哀しい。
会いたいよ
海斗
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