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おもいびと
◇時つ風8





汗をかいたままだと風邪引くから……って、先輩の部屋でシャワー借りて。
ついでに服も借りたはずなのに、その服はすぐに脱ぐことになって。

おれは、雰囲気に流されるまま、先輩に抱かれていた。



『初めての相手は、嫌われてもいいくらいのひとがいい。もし、上手くいかなくて気まずくなったとしても後悔しないから』



そんな事を何かで聞いたっけ。
いや、読んだのかな……。



そんなのは嘘だ。

信頼できる相手じゃなきゃ絶対に無理だと実感する。

少しでも嫌な相手だったり、思い遣ってくれそうもない相手だったら、あんな事は出来ないし論外。
と言うか海斗以外の人とセックス出来ないと思っていたのに、この裏切りは何なんだっ!……て、もうグチャグチャで考えがまとまらない。



けれど、初めてだったのにあんなに興奮して大胆に楽しんだのは事実で。
おれは初めて、先輩が一番信頼している相手だったんだな……と、おれ自身の感情を理解した。

だから今、おれの目の前で、土下座するような勢いで頭を下げて謝り続けている先輩を見ているうちに、全否定されたみたいで面白くなかったのは確かだった。



「先輩は、女の子にそんな風に謝ったりするんですか?」

おれが訊くと先輩はポカンとした顔でおれを見つめてきた。

意外な言葉だとか意味が分からないといった縋るような視線で、おれの反応を窺う様な在り方はなんとなく自分が優位に立ったような、そんな気にさせられる。

「男同士だし、気持ち良かったのなんてお互い様じゃないですか?おれも、イッたの覚えてるし」

許すとか許さないとか。
やったとかやられたとか。
そんな次元で考えて欲しくない。

おれたちは対等な男同士で。
おれはオンナみたいな従属物じゃないし、そんな弱者でもない。

保護するような、そんな目線で見られたくない。



そんな目線でおれを見ていいのは、海斗だけだ。



「だって……陸。おまえ、泣いてる……」



先輩の指摘は心外だった。

なのに、その指摘で自分の頬に触れて、おれは初めて自分の顔が涙に濡れていることに気付いた。



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あきゅろす。
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