おもいびと
◆恋慕4
「おれは本当は我慢しているんだ。今だってグラグラ揺れてる。がっついておまえをメチャクチャにしてしまうかもしれない」
一度溢れてしまった感情は、収まりがつかない。
どんどん溢れ出して垂れ流しで。
後になってから絶対後悔しそうな言葉を陸にぶつけていた。
それまで冷ややかにおれを見つめていたはずの陸の顔が、眉をへの字に曲げて泣きそうになる。
「だけど、それじゃあダメなんだ!それじゃあ……ただの発情期のガキと一緒だ!!」
「海斗ぉ!」
おれの葛藤を理解したのか、陸が悔しそうに唇をへの字に曲げて、固くつむった目から涙を零した。
おれたちの関係は、ヤりたいだけの男同士みたいな、そんな薄っぺらいものじゃない。
おれも。
陸も。
互いに刺激し合って、高め合って。
支えあって、努力して。
今までずっと、ひとりの人間として生きる術を習得するために、自分自身を磨いてきたんだ。
おれたちの生き方は、後ろ指を指されるような、疚しいものじゃない。
男兄弟で仲が良くて、何が悪い!!
たまたまそこに、セックスが絡んだだけじゃないか!
それはおれたちの一部であって全てではない。
付き合ったり別れたりするような、そんな次元のお手軽な関係とは違う。
これは、決して解れる事のない運命の絆だ。
おれは、おまえを守るために先に生まれてきた。
今は、そう信じることが出来る。
「待てるか?……陸」
ひとつのソファーに座って向かい合うおれたちは、未来の約束を交わす。
それは、見えない明日を想う漠然としたものではなくて、おれの中ではすでにひとつの道となって示されていた。
「いつまで?……受験終わったら?ずっと海斗といられる?」
おれは現実の厳しさを思い出した。
自分が身を立てないと、陸を迎えてやれない。
「そうだな。まずは、合格しないと」
「うん。おれ応援する。……頑張って、海斗」
おれの両手を握って、陸が力を分けてくれようとする。
その気持ちが嬉しくて、おれは手を握りしめて離さない陸の額に、自分の額をこつんと当てた。
「随分しおらしくなったな」
鼻先が触れ合いそうなほど接近すると、不意に陸が赤くなった。
「だって……海斗が頑張ってるのに、わがまま言えないよ」
「陸……」
可愛い陸。
可愛くて、愛しくて、たまらなくなって、おれはその身体を抱き寄せた。
「海斗ぉ」
耳元で甘える声が震えて、また陸が泣き出してしまった事を知る。
「絶対幸せにするから。待っていてくれ、陸」
「うん。約束だよ、海斗」
縋る背中を抱き返しながら、心からの願いを込めて。
おれは、陸の耳元に囁きで伝えた。
約束する、陸
幸せになろう
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