[携帯モード] [URL送信]
救世主(指定席の続き)
救世主


たとえ騙されていても
彼は私を救ってくれたから…彼は私にとってはヒーローだから


救世主


『葉月、おはようさん』
『……おはよう仁王君!』
『ははは  今日も元気そうで何よりじゃ
それにしても……相変わらず葉月の頭は撫でごこちがいいのー』



……毎朝の光景
いつものように彼にからかわれる


『やめてよぅ……せっかく寝癖直したのに……』
『………そんな顔されるともーっといじめたくなる…………知っとるじゃろ?』
『……〜!!!』

ちょっと意地悪に笑う  この整った顔が近づくと
恥ずかしくて何も言えなくなってしまう


見慣れた光景にクラスのみんなも呆れて笑っている…


………………………

あの日  髪を短くした私は
ホームルームの時間を借りて、クラスのみんなに話をした。

怪我のせいで左耳が聞こえない事……
本当はみんなと仲良くしたい事……
正直に自分の気持ちを伝えた…。

最初は驚いた様子だったけど
みんな優しくて…挨拶もできるようになって……
それ以来、クラスのみんなとは大分打ち解けて
私に怒鳴ったあの子とも…放課後遊びに行くまでに仲良くなった


…………これも  彼…仁王 雅治くんのおかげ……………





…………………………………………………


『葉月!……今日も部活見にきんしゃい』
『……うん!!』

『……じゃ…待ってるぜよ』


ニコっと笑って彼に手を振り見送る

詐欺師≠ネんて言われている彼だけど…
本当はとっても優しい
今日も私に声をかけてくれる…

…………ついつい顔がにやけてしまう…

『ね〜……葉月〜………』

その様子を見ていた隣の席の子が少し声をひそめて声をかけてきた

『ん?なに??』

『………………ぶっちゃけ…仁王とドコまでいってるの…??』

『…………???』

『………………………。』

『…………………えぇ!?』

『声大っきいよ!!……反応遅いし……ははは…ちょっと前の葉月じゃ考えられないね』

『ドコまでって………家まで送ってもらってる…とか……の意味じゃなくて……………』
『……キスくらいまではした??』

『〜ッ!!!??…………してない!!してないに決まってるよ!!!なっ…ななななんで私と!?』
『……なんでって……付き合ってるんでしょ!?』

『…!!!』
首と手を大袈裟に横に振る

『……わ……私なんかと付き合ってるなんて勘違いされたら
仁王君が可哀想だよ…………仁王君は私と友達≠ノなったから
……責任感で一緒にいてくれてるの………』

『…………………………はぁ〜 …葉月…
…………アンタせっかく明るくなったのに
ネガティブ健在だね………………もっと自信持ちなよ!!
……一応…聞いておくけど…葉月は仁王の事好きなんでしょ…??』

『〜…ッ!!!すすす好きっていうか… 憧れてるっていうか…!!』

『………焦りすぎでしょ……わかりやすいね……
好きなら告ればいいじゃん!!』

『………告白なんて…!!!………だって……振られちゃうもん………せっかく…………友達になれたのに……』


『……………葉月……』





………………………………………………………………………



友達にバイバイ…と手を振り別れテニスコートに向かう

さっき言われた事が頭の中を駆け巡る…

『……告白…か……』


テニスコートの周りにはすでに大勢の人だかり

テニス部のファンは多い…
目的の人を拝もうと   場所の取り合いになっている
…………いつもの光景…
放課後、教室から1人で眺めていた頃から変わらない…

黄色い声を送る女の子の中から
仁王君を呼んでいる声が聞こえた

……………キレイな子だな…


『仁王君……モテるもんね……』


『……やっぱり………私なんか………………』


告白をして  今の関係が壊れたら嫌だ

もし……………振られてしまったら………………………………





『……葉月!!』

『……おーい…聞こえとらんのか…??』


呼ばれてハッと我にかえる

『…やーっと気づいた…こっち来てくれんか』

『ご、ゴメンね、ちょっと考え事してて……』
フェンス越しに手招きする仁王君に急いで駆け寄る


…あの人混みの中でも  私を見つけてくれた
…………………視線が痛いけど………
うぅ……仁王君ファンの人達かな…


『……なんか悩みか?』
『えーと…たいしたことないから気にしないで!
何か用だった?』
『……いや、用は無いんじゃけど……葉月が見えたから呼んだだけ』
『……!!…そ、そっか…』

そんな嬉しすぎるセリフをサラッと言う仁王君は
汗が光って…髪が濡れて……なんていうか……色っぽい…
いつも素敵だけど…やっぱりテニスをしている時の仁王君は
さらに輝いている…………そりゃモテるハズだよね…………


『練習終わるまで待っとってくれるか?』

『……もちろん!練習頑張ってね』

仁王君は  ふっと笑うと コートに戻って行った



『…………顔   真っ赤になってるかな…』


少し離れた所に戻り  練習風景を眺める…

ついつい仁王君の銀髪を目で追ってしまう……
周りの人達も また 声援を送っている

………………私だけのヒーローじゃない…みんなの人気者…



…近くにいる様で……やっぱり遠い…
テニスコートとの距離と自分達が重なって見えた




…………………………………………………………………………


『葉月!待たせたの』

『ううん、今日も練習  お疲れ様!』


練習が終わったあと
疲れているハズなのに  いつも仁王君は家まで送ってくれる

…でも……自分だけが特別ではない

こうして一緒に帰ってくれるのも、声を掛けてくれるのも………
本当は優しい仁王君の事だから
友達≠フ私を気遣ってくれているんだと思う………


『…………そうやって葉月に言ってもらうと癒されるぜよ』
『………………。』
『ははは、そうやって  すぐ赤くなる所にも癒されるのぅ』
『……………もう…すぐからかう……』
『いやースマンな  葉月があんまり可愛いもんでな』
『………………………………………また  そうやって………』
『男は好きな子をいじめたくなるもんじゃろ??』


『……………!!……からかわないで…!!!』


突然  大きな声を出したので
仁王君は少し驚いた様子だった

『…………ワシは……いつも……本気じゃけど?』


『……!!……………か、帰る…!!』

『え!?お  オイ!…待てって!!』



私はその場から逃げ出した

………勘違いしちゃダメだ
仁王君はからかって遊んでいるだけ…
騙すのは仁王君の得意分野なんだもん………


………だけど期待してしまう自分が恥ずかしい……!!


真っ赤になりながら走る
それなりに本気で走ったつもりだったけど

………すぐ追いつかれて腕を掴まれた



『……はーっ…捕まえた……急にどうしたんじゃ…』

『………。』

『からかったって…怒っとるのか?』

『………………だって………』
『………??』


『仁王君はなんにも思って無いのに…………
……………………私ばっかりドキドキして…!!!
私ばっかり好きで…!!………………………!!…』

『……………!!!』



手を振り解きまた走る

……………私はなんて事を………!!
こんな事で  この関係を壊してしまった

想うだけで幸せだった
隣にいるだけで嬉しかった
……それ以上の関係なんて………望んでいなかったハズなのに………

なのに………溢れて止まれなかった…

私は
自分が思うよりずっと………仁王君の事が好きだったみたいだ…


涙が溜まって  前が滲んで見える

そんな事お構いなしで
息を切らしながらひたすら走る

何も考えたくない …………
とにかく逃げ出したくて必死に走った



『…………危ない…!!!』


…………………………!!!

突然  後ろから引き寄せられ……だきしめられた


その事に驚いていると
大袈裟にクラクションを鳴らしながら
1台の車が通り過ぎて行った



『………はぁ〜……焦ったぜよ』

何が起こったか理解できずにいると
後ろから  声が聞こえた
…………私を抱きしめているのは仁王君だった



『……車の音……聞こえんかったんじゃろ??…無事で良かった…』


だんだんと落ち着きを取り戻す

どうやら私は…
後ろから近づく車に気付かず  危うく  ひかれるところだったらしい
耳が悪い私は  以前から  こういう事が何度かあった…

……………………また  彼に救われてしまった…



『…………仁王君……………私……!!』

『………葉月…………このまま聞いてほしい事があるんじゃ…』

『………………このままって………』

『…後ろ見ずに…話を聞いてくれ
…………ワシはどうも  目を見ると上手く喋れん…』
『……………仁王君…………』

『……さっき  言ってたこと…………本当か?』

思い出し  赤面する
そうだった……私  …一方的に告白しちゃったんだ……
……しかも  逃げてきちゃって……


なのに………仁王君は  また  追いかけてきてくれたんだ…


『葉月…………』

『…………………………葉月のこと……好いとうよ…』

『……………!?』


『……信じられんか??…………確かに  いつもお前さんを
からかっておったが……俺は……本当は……』

背中に仁王君の鼓動を感じる
すごく……ドキドキしてる……
私と…同じ様に……

『……ワシは……お前さんと仲良くなるより前から……ずっと………
だから…もう一度聞かせてくれんか?……さっき言ってたこと…』


仁王君の腕は少し震えているように感じた
いつもの飄々とした仁王君じゃない……

『……仁王君…………私…仁王君の顔が見たい……』

『……………情けない顔しとるぞ?』

そう言うと  少し  照れ臭そうに
仁王君は腕の力を緩めてくれた

私は、仁王君の目線に合うように見上げた

見つめる先の仁王君の瞳の奥に私が映って見えた……




『………仁王君は……私のヒーローなの…』

『……ヒーロー……??』

『仁王君のおかげで……私は変われた…
なのに私は仁王君に…なんにも恩返しできてない……だから………
これからずっと仁王君の隣にいたい… ………
…………大好き…』

『………十分  お前さんは返してくれとうよ…
…………………今  この瞬間も……
葉月…………大好きだ…………………』





…………………………………………………………………


『………しかし葉月の方から告白してくれるとはの〜…
まぁ…逃げ出すとは思わなかったが』

『……………うぅ……恥ずかしい……』

『最終的にはワシの作戦どおりじゃな』
『……………!?』

そう言いながら仁王君は、また意地悪に笑った




…………たとえ騙されていたとしても

繋いだ手でしっかり私を守ってくれている

彼は私のヒーローだから…

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!