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近距離(真田)
近距離

俺の隣……
いつもこんなに近くにいるのに

近距離


『真田先輩  お疲れ様です!ボールここに置いて置きますね』
『あ…あぁ…すまない』

いえ≠ニ  にっこり微笑んで
彼女は忙しそうに駆けて行った

彼女は  我がテニス部  唯一のマネージャー

働き者で礼儀正しく
それに毎日  手を抜くことなく  俺たちを影から支えてくれている彼女

……………俺は  そんな彼女に好意を抱いている

しかし  
全国制覇を掲げている今……
そんな事にうつつを抜かしている場合じゃない…
俺がこんな事では周りに示しはつかん…

……そう自分に言い聞かせ
彼女への思いを胸に秘めていた………


『弦一郎』

『蓮二!アップが終わったのなら  早速試合形式を始めるぞ』
『………分かった…部員には俺が声をかけてこよう』
『あぁ、頼んだ』

『…………そういえば』

『なんだ?』

『マネージャーの如月がさっき転んでケガをしていたのでな……
一応  保健室に行かせたので  お前に報告しておく』

『そ……そうか……………………』

先程会ったとき、かなり急いでいた様子だったからな…
大した事が無ければいいが………


『……如月が心配か?』
『…!!マネージャーも我々テニス部のれっきとした仲間だ!
……………心配するのは当然だろう…!!』
『……フフフ   分かりやすいな  弦一郎』
『…な…何がだ!?』

『お前が如月を特別視しているのはバレバレだ』

『……!!俺はそんな事に  うつつを抜かしている場合ではない!!』

『弦一郎……もっと自分に優しくてもいいんじゃないか?
………お前は十分に  副部長としての役割を果たしている』

『……幸村がいない今…俺が部員に示しをつけねばならんのだ!!
…蓮二!!こんな  くだらない話なら俺はもう行くぞ!!』

『………くだらないと思うか?』

『……まだ何か言い足りないのか……?』
『ひとりの弦一郎というの男≠フ   親友としての忠告だ』

『……………!!』

『最近のお前は硬くなりすぎている……
お前の責任感あっての事だとは分かっているつもりだが……
最近のお前では  逆に部員に悪い影響を与えかねない』

『…………………言いたい事はそれだけか…?』

『今からお前は保健室に行って彼女を迎えに行け…
…………そして自分に素直になって欲しい。
俺は  如月と一緒に居るときの自然なお前の方がいいと思うぞ』

『……………。』

『今は……彼女の側にいろ』

『……………蓮二…………俺は…………』

『後の練習の事は任せろ……お前だけが無理する必要はない』

 『…………分かった…お前の言う通りにしよう…』


……………………………………………………………………

静かに校舎を歩く……
放課後でほとんど人の気配はなく  
いつも賑やかな廊下も
この時間だとなんだか閑散としている……

『自分に素直に』
蓮二が言った言葉が蘇る

俺はこんな所にまで来て………
如月を前にしたら 一体どうしたらいいんだ……


辿り着いた保健室も
電気は付いていないし
静かで人がいる気配もない………


もう如月はいないのか…??


扉を開く音だけが廊下に響き渡る



『……如月………いるのか??』



『……………真田先輩…………?』

夕暮れ時の光が差し込んで
彼女の姿を映し出す

如月は瞳にいっぱい涙を溜めて
ひとりぼっちで座り込んでいた……


『す!すみません!!すぐ  戻りますから…』

『いや……連れ戻しに来た訳ではない…………
怪我をしたと聞いたが………大丈夫なのか??』

『ご心配お掛けしてすみません…ただのすり傷ですから大丈夫です』

如月のヒザを見ると
白い肌につたうように血を流していた

『……随分派手に転んだようだな…………
これはちゃんと治療をするべきだ……… 俺に任せろ』

『え!?そんな!!!ひとりで出来ますから……!!』

『……自分では  処置しにくい場所だろう?
…………いいから俺にやらせてくれ』

『はい……じゃあ…お言葉に甘えます…』


如月を椅子に座らせたまま
自分が屈んで消毒をする

その様子を
如月は   申し訳なさそうにこちらを見下ろしている……

『真田先輩……本当にご迷惑かけてすみません…』

『気にするな…………俺が好きでやっている事だ』

『はい………ありがとうございます……』

『ところで如月』

『………はい……』

『先程のお前は…泣いていたように俺には見えた…
………怪我が痛かったのか?それとも………何かあったのか…?』

『……………。』

『言いたくないなら無理強いはせん……
しかし……………もし俺に話せる事ならば……その……
………聞かせてくれないか…?』

『………………………………………。』

『…………無理に言う事はないぞ……』

『……………自分が……情けなかったんです……』

『……お前が……情けない???』

『はい……………真田先輩 ………幸村先輩が入院されてから
ずっと…無理をされている気がして………
少しでもお役に立とうと思ってたのに怪我しちゃて……
大事な時なのに……マネージャー失格です……
そんな自分が情けなくて泣いてたんです………』

『情けなくなどない!!お前は十分にやってくれている!!』
『………情けないのは俺の方だ…
好きな相手にまで心配をかけて……その上  泣かせてしまった………』

『………え??』

『先程、蓮二にも忠告されたところだった……
最近のお前では部員に悪い影響だ……と………
俺のせいで  お前に無理をさせて  怪我をさせてしまった………』

『そんな………先輩のせいじゃないです……』

『……俺はどうやら幸村がいなくなって無理をしていたようだな…
支えてくれる者たちが周りにいるのに  気付かず…  なんでも
ひとりで解決しようとしていた…』

『真田先輩……』

『如月…俺を 許してくれ……』

『許すもなにも……先輩を支えるのが私の仕事ですから……』

『しかし、それでは俺の気が済まない……張り手の一発でも
してもらいたいぐらいだ…!!』

『……………………先輩の気が済まないと言うのなら…
私を………先輩の側にいさせて下さい……これからも……ずっと…』

『…如月………??』

『…………さっき…私の勘違いで無ければ…
私のコトを好きな相手≠ニ言って下さったはずです…』

『………………!!……ち!違う!!
いや!違う訳ではないが……!!しまった………』

『私は……ずっと前から先輩の事が………』
『待ってくれ!!……………恰好悪いとは思うが
…………ちゃんと俺から言わせて欲しい……………』

『………はい…』

『お前が好きだ………ずっと側にいて俺を支えて欲しい』
『……………はい!!どこまでも付いて行きますから……!!』



……………………………………………………………

(俺の計算通りだ)
(オイ!押すなよ赤也!!いいところなんだよ!!)
(丸井先輩ばっかりズルいっスよ!!)
(やれやれ………世話が焼ける……)
(つまらん……チューくらいせんかの?)
(うーん、ま、真田は奥手だからな……)
(お二人が上手くいって良かったですね)
(柳生先輩!!オレも見たいッス!!あの副部長の檄レアなシーンをこの目に……!!)

………ガラッ!!!!

『げ!!副部長!?』

『……………………たるんどる!!!』


………………………………………………………


一番近く
いつでも側にいて
これからも俺を支えてほしい


ずっと………

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あきゅろす。
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