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好敵手(切原)
好敵手

負けられない

……………………君のことが分かるまでは


好敵手




『……………………やるな………!!』


『………………そっちこそ』





目線は画面に釘付け



一瞬でも気を抜けば終わり……………

手元はせわしく操作をしながら  騒音の中  話し掛ける





……………………ここは  俺行きつけのゲームセンター



二十人抜きを達成してから
この店で俺を知らないヤツなんかいないし、

格ゲーの悪魔≠ニ呼ばれている俺に勝てるヤツもいない





ゲーム機を挟んだ反対側にいる

この……………………………たった1人を除いて………








『……………………ねぇ!!』




『……………くらえ!!…………………なんだよ!?』



『………………………もうすぐテストだね!?』


『…………!?』



『………スキあり!!!』






(ーーーーーーーーKO!!!)





………………ノックアウト…………俺としたことが!!!!






『……………………クッソ〜〜〜〜〜ッ!!!!!!
オイ!!!急にテストとか言うなよ!!!卑怯だぞ!?』



『気を抜くから悪いんでしょ??…………………
ほらほら!!負けた方はジュースでしょ!?急いで!』




『……………………………………ちっくしょ〜〜〜〜〜!!!』






ゲームの腕は間違いなく俺の方が上




…………なのに  なぜか勝つ事が出来ない………


モヤモヤしながらも自動販売機へ向かい………約束のジュースを買う










『はぁ〜♪………勝利の味!!最高!!』





ジュースを渡すと

ヨユーの笑みを浮かべ………………ゴクゴクと勢いよく  飲み始めた




…………その様子を見て俺は  うなだれる………………





『………くっそ〜………………』




『あはは…………そんなに熱くならないの!ゲームなんだから』






……………この余裕……………!!

コレが俺に余計なダメージを与える……………!!




遊びとはいえ  悔しい……………!!


……………………今日は負けるわけにはいかなかったのに…………








『はぁ〜……………いつになったら名前教えてくれるんだよ!!』




『…………勝ったら≠ナしょ??自分で言い出したのに』







鼻で笑うように  そう言うと

目の前の  この女は残っていたジュースを全部飲み干し、

…………さっさと帰ろうとしている………………………





学校も

年齢も

名前さえ知らない俺のライバル







この子と  たまたま  この店で手合わせして以来




可愛くて   強くて  趣味も合う…………


こんな女の子には  もう  出会わないかもしれない


そんな運命まで感じてしまった俺………………。






今日こそは………………そう…………思っていたのに……………






『なんでアンタに勝てないんだよ…………………』




『ふふふ!………そんなに落ち込まないの!
……………それより…………
ゲームセンターなんか来てる暇なんてないんじゃないの??
き・り・は・ら君??』





『…………………!?…………な、なんで俺の名前知って………!?』




『人に名前を聞く時は、自分から名乗らないとね?赤也くん?
………………それに……赤点だとゲームさせてもらえないよ??』



『下の名前まで知ってるのかよ!!アンタ一体……………』



『ふふ………勝ったら≠ナしょ??……………………ゲームセンター来れるようにテスト頑張ってね』




『お!おい………………!!』





俺が呼び止めるのを  スルリとかわし

ヒラヒラと手を振りながら  あの子は出て行ってしまった…………




その背中を見送りながら……………………頭を抱え考える





なんで俺の名前を知っていたんだ……!?









一体……………あの子は何者なんだ…………??







考えてもラチはあかない……………つまり…………





『…………………………俺ってやっぱり有名人なのか………!?』






そう  勝手に解釈した……………







………………………………………………………………………












あの子とゲームセンターで会ってからしばらく……



そろそろ  あの店に顔を出せば  あの子に会えるかもしれない

………………けど


俺には行けない理由がある…………





コレだ………………




廊下を歩きながらコソッと半分に折ったプリントを覗き込む………


…………………これはテスト前に行われる英語の小テスト…………





絶望的な点数にため息をつく



『……………ヤバい………!!!……このままじゃ副部長に殺される………!!』




この間のテストで
俺は歴史ある立海テニス部員初めてとなる全教科赤点を取った………




その時の副部長の怒りようといったら…………!!





………………………思い出しただけで寒気がする…………………






俺は  盛大にため息をつくと……………


それと同時に

持っていた小テストをついつい落としてしまった…………



『……………いけねッ!』



テストは俺の手元を離れ…………


ヒラリと1人の女の子の前に落ちた……………





『…………………どうぞ』






その子は親切にテストを拾い上げると俺に差し出してくれた








メガネに長い髪をひとつに束ねた簡単な髪型……………

かなり  大人しそうなヤツ……………
見たこと無いヤツだし………………多分三年生だろう





『あ…………………すんません………』





…………………拾い上げてもらったテストを受け取ろうとすると

ヒョイっと
手元からテストが無くなった…………




『…………………!?』





『…………………………7点って……………このままじゃ赤点確実ね………
………………………切原 赤也くん??』









この声…………………!!


このヨユーの喋り方……………………!!



まさか………………!?









『これじゃ勝負はお預けかな??』





『……………………あ!アンタ……………!?』




驚いて頭が真っ白………………そんな俺を無視して


ニコッと笑うと
目の前でテストをじっくりと眺めだす………






『うわ〜…………………コレは……絶望的………………
真田くんに話は聞いてたけど……………ホントに英語苦手なんだね………』



『そんな事より!!!!なんでアンタがこんな所に居るんだよ!?』



『なんでって…………生徒なんだから当たり前でしょ』





…………………まさか立海の生徒だったなんて…………!!


しかも年上…………



真田副部長がなんだって!?





頭の中は混乱で埋め尽くされていく…………………






『…………………………どうしたの??』



『どーした?………じゃねーよ!!!!アンタ立海の生徒だったのかよ!?』


『立海生じゃ無いなんて一言も言ってないけど??』





『そーだけど………!!そうじゃなくって…………その………!!』







慌てている俺を見てクスクス笑うと

今度はちゃんと テストを返してくれた





『テニス部のエースが赤点だとマズいんじゃない??』





『………………え???………はッ!!そうだった………………!!!
ヤベーよ…!!!………このままじゃ副部長に…………………!!』


『あはは、真田くんにいっつも怒られてるもんねぇ…………』



『なんで知って……………じゃなくて!!アンタ一体 何者なんだよ!?』


『だから、勝ったら≠ナしょ??
……………………………でも  このままじゃ勝負出来ないね………
………………う〜ん……………
……………………………………………………よし!決めた!!』


『…………へ??』


『テストまで勉強みてあげるから、明日から昼休みに3ーAに来て』


『へ!?』


『じゃ……………約束だよ??』




…………………………………………………………………………………





『ちーっす…………』



おそるおそるドアを開け

言われたとおり昼休みに3ーAを訪ねる




勉強はともかくとして…………………あの子に会える!!



でも



…………………この教室は苦手だ……………


なぜなら…………………







『赤也!!!遅いぞ!!!!たるんどる!!!』




『ひッ!!!……副部長!?』


『話は聞いている!!彼女に勉強を教わるそうだな』




教室の  ドアの前で仁王立ちする副部長のスキマの奥に
あの子がヒラヒラと手を振っているのが見えた




『…………………どういう経緯かは知らんが……………
彼女の好意を無駄にするんじゃないぞ!!!!分かっているな!?』


『わ!………………分かってますよ〜………………』


『お前が赤点でも取ろうものなら………………学年トップである彼女の顔に泥を塗ることになる!!!』


『………………………学年トップ…………!?』


『しっかりやれ!!…………………すまない   では赤也の事を頼む』



『心配しないで真田くん………私が勝手にやっている事だから』





………副部長は 
俺に聞こえないように あの子と言葉を交わすと

……………スタスタと教室を出て行った



『そんな所に突っ立ってないでこっち来て』




…………………副部長の背中を見送ると

それを待っていたように  声をかけられ、俺はおずおずと教室に踏み出す




『……………お願いしまーっす…………』


『切原くん  ちゃんと来たね?えらいえらい♪』



相変わらずヨユーたっぷりで  手招きしながら
隣の席に座る様に促してきた



『……………赤也でイイっすよ?…………この席って…………』


『真田くんの席を貸してもらったの………ホラ、座って』



机をくっつけて向かい合わせに座ると
周りの人も不思議そうに俺たちの事を見ている




『…………………明日は図書室で勉強しよ………だから今日だけ我慢して!……………私………スパルタだから覚悟してね……………?』





そうやってイタズラっぽくニコッと笑う……………


ゲーセンで会う時よりも随分 大人しい姿だけど
こういう笑顔を見ると

やっぱりあの子≠ネんだと思う





『なぁ………アンタさぁ………学校だと印象違うな?』





顔を覗き込むとそっぽをむかれた



『……………まあ………赤也くんに会う時は……………塾サボってる時だから私服なだけで………コレがいつもの私だけど』


『ふーん…………俺  最初会った時  全然分からなかったぜ』


『……………私はずーっと前から赤也くんの事知ってたよ』



『………へ?ゲーセンで会う前から…………??』



『はい!おしまい!!もう無駄口たたかない!!
…………………………………………まず英語からね!!!』


『げっ!?』







………………結局


スパルタ≠ニか言ってたけど
めちゃくちゃ分かりやすく教えてくれた












……………………………………………………………………………






あれから毎日 休日を除いて勉強を教えてもらっている




会うのは1日の間の短い時間…………




あの子の事は  まだまだ秘密ばっかりで教えてもらえないけど

勉強会は  俺にとっての密かな楽しみになった




俺のために…………
自分の昼休みを削ってまで来てくれている……


…………………これで赤点取ったら


俺……………サイテーだよな…………………?








『チーッス!!』


『赤也くん遅いよ!!テスト明後日だよ!?』




少しむくれた顔の彼女の前に  滑り込むように向かい合わせに座ると

急いで教科書を開いた




『もう………………
昨日の続きからやるね…………テスト範囲から考えると………………ココと…………ココも…………あと…この辺り勉強しよっか??』




教科書にシャーペンでスラスラと丸をつけていく



教えるのも上手いし、俺でも分かる………

…………この人……………

かなり頭いいんだろうな……………





『なぁ………』




『うん?分からない所あった?』


『いや……………なぁ……………アンタはなんで俺にここまでしてくれんの??自分の時間なくなるのに…………』



『…………私は赤也くんと違って今更 焦る必要ないから安心して?…………赤点取ったら勝負出来ないでしょ』



『勝負なんかしなくたって名前くらい教えてくれたっていーじゃん!!……………………副部長に聞いても教えてくれないしよ〜……』


『真田くんに聞いても無駄だよ?口止めしてるから』


『くっそ〜……………手回し良すぎ!!』


『ハハ………………私に勝ちたかったら頑張って勉強してね』


『ちぇ……………』


『拗ねないの!!………………ほら!!今日で勉強終わりにするから頑張って!!』


『…………………………え?』





確かに もうテストは明後日…………

これ以上この子の邪魔をする訳にもいかない…………でも

せっかく2人で居られたのに………………





『……………テスト終わっても………またアンタに会える……??』




『……………赤点取らなければね………』



『うおっし!!!俺  頑張る!!!!』






『…………………………ふふふ……………』



『…………??………何  笑ってるんだよ…………』




口に手を当てて優しく微笑む

こういう時……年下扱いされてるって感じる………………可愛いけど





『一年生の頃から変わらないね……………赤也くんは』


『え?………………俺の一年の頃……知ってんの……??』


『お調子者で自信家で…………………テニスしてる時は恰好イイのに』


『俺やっぱりカッコイイ!?照れるな〜………………………
………………………………………って部活見に来た事あんの!?』



『カッコイイの所しか聞いてないし……………
…………私……………テニス部の試合は全部見に行ってるよ』


『へ!?そうなのか!?』


『…………やっぱり気づくハズないよね………………
だから……………私は……………………………………』



『………………………………………だから…………??』










………………しばらくの沈黙が続いて





気になって 彼女を覗き込む





目が合うとワザと視線を外すように彼女は大きな声を出した




『……………はい!!おしゃべり終了!!!真面目に勉強!!!』



『え〜!?気になるじゃねーか!!!』


『ウルサイ!追試受けたいの!?』



『ちぇ……………………』





言いかけた事を 誤魔化されて
拗ねたように小さく舌打ちをすると





それを見兼ねたように  こちらをチラッと見て呟いた





『………今度……………もし私に勝てたら全部教えてあげる』








そう言いながら…………赤くなって   また  そっぽを向いてしまった



……………こんな顔見たの初めてかも



いつもの強気な感じもいいけど

こういう姿も可愛いじゃん!!



……………………ついつい俺はニヤニヤしてしまう








『…………………頑張ってよ?
…………………赤也くんが居ないとあの店に行く意味ないから………』







消えてしまいそうな声で  そう言っているのが聞こえた


顔を見ると
相変わらずソッポを向いたまま教科書をペラペラめくっている







………………………頑張るしかねーよな




この子のためにも…………………












こうして俺はテストの日を迎えた……………………………







…………………………………………………………






『はぁ……………はぁ……………!!』






全速力でゲームセンターに走る


………俺が息切らしてまで急ぐなんて普段では考えられねーよな……





一刻も早くあの子に会いたい




会って……………今度こそ………………










『あ……………赤也くん』


『……………………ういっす』




乱れた呼吸を整えながらあの子の元に歩み寄る




『…………………随分 急いで来てくれたんだね………
今日  結果出たでしょ??…………………どうだった………??』



『………………………。』





『………………やっぱり付け焼き刃じゃダメだよね……………』



『俺…………………………』




『……………え………??』


『こんなにいい点数取ったの初めてだぜ…………!!』



急いでカバンの中を漁って
返されたテストを彼女に渡す



…………………彼女から見れば大した事のない点数だろうけど
俺にとっては奇跡に近い点数だった





『……………これで副部長にも胸を張って会えるぜ……!!』



『…………良かったね、赤也くん』


『おう!!ぜーんぶ!!アンタのおかげだぜ!!!』




『ふふ…………役に立てて良かったよ!
……………赤也くんは………大切なライバルだからね』





その時の笑顔が本当に嬉しそうで

自分の事のように喜んでくれているのが分かった





『これで勝負出来るな!!』




『…………うん……それでね…………
赤也くん………………………わたしの事なんだけど……………』



『………………その前に約束してくれ!!……』



『え…………??』



『今日、俺が勝ったらアンタとデートしたい!!』



『…………………えぇ!?』



『約束だぜ!?……………では………いざ勝負!!』







向かい合って対戦する


………以前と変わらない光景






でも



確実に  前より好きになってしまった







………………………………………………………



負けられない

あの子を俺のモノにするまでは



………………………………………………………













『よし!!そこだ!!』


(声に出過ぎ…………分かりやすい)


『何!?これも避けるのかよ!?』


(……………はぁ……………また  前からファンだった≠チて言えなかったな………)


『今日は負けないぜ!!絶対デートしてやる!!』


『ハイハイ、頑張ってね』

(勝負じゃなくて普通にデート誘ってくれたらいいのに…………)



『おりゃ!!!ココだぁ!!!!!!!』


(変わらないな…………この楽しそうな顔……………
仲良くなりたくて必死に格ゲー練習したかいがあったよ……………………)



『あ……………いま真田くんが通って行ったよ?』


『…………………副部長!?』






(ーーーーーーーKO!)



『…………………………………あ〜ッ!!!!だからズリーって!!
くそ〜ッ!!!もう一回勝負だ!!絶対デートを…………!!!』



『はいはい…………デートしたいなら頑張ってね?』



『おりゃ〜!!!!!』




(……………………………………ワザと負けようかな…………)

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あきゅろす。
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