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人魚姫(切原)
人魚姫

水泳部の二年生エース

…………誰が言い出したのか
あの子は人魚姫≠ニ呼ばれている……


人魚姫


今日も朝練から先輩達にしごかれまくってクタクタ………




レギュラー陣の唯一の二年という事で
俺は  先輩達より練習メニューもキツイ気がする……


そう  柳先輩に訴えたら
何処からともなく副部長が現れて

『たるんどる!!!』

………と    朝から喝を入れられてしまった………


朝からツイてないぜ…………
トボトボと教室に向かう俺…………




でも、教室に入れば……………
疲れている事も、副部長の説教も
…………………………………ぜーんぶ……ふっ飛んじまう




『赤也君、今日も朝からお疲れ様!』




そう言って目の前で微笑むのは俺の大好きな女の子

………この子に会うだけで俺は嫌なコト全部忘れちまう!!



『おう!!お前も朝練だったんだろ??』

『プールに入るのは放課後だけだから、かるーい練習だけだよ!
……………赤也君   朝から大変そうだったね』

『へ!?』

『ジョギングしてる時に……その………怒られてるの見えたから』

『………………!!』


………くそう!!副部長のせいで
恰好悪い所  見せちまったぜ…………!!!


『もうすぐ試合だから…………テニス部も気合入ってるんだよね?』

『……まーな!!俺って1人だけ二年だからメニューもキツくてよ〜』

『それだけ赤也くん、期待されてるんだね』

『へへへ!!そうだな!!天才の宿命だよな!!
…………アンタだって俺と一緒で期待されてんだろ〜!?』



『…………………………どうかな……』



『………??みんなお前はスゴイって噂してるぜ!?
次の大会も表彰台確実って言われてるらしいじゃねーか!!さすがだぜ!!』

『………私なんて全然……赤也くん程じゃないよ………』

『謙遜すんなって!!ま!!お互い唯一の二年としてがんばろーぜ!!』


俺がそう言うと  彼女はニコっと  また笑って
静かに自分の席に戻っていった……




一瞬  表情が曇った気がしたけど


笑った顔は相変わらず  カワイイ………
それに  俺と違って勉強も出来るし……
二年でレギュラー張ってるのは   色んな部活の中でも俺たちだけだ



……………これって、運命!?

やっぱり俺たちってお似合いなんじゃねーの!?



……………そう考えながらニヤニヤとホームルームを受けていたら



たまたま……
先生の手伝いで通りかかった副部長に見られていたらしく……




…………俺は   また  部活が始まる前に呼び出され………
説教されてしまった………




……………………………………………………………………………






『テニス部たるもの授業やホームルームでも手を抜いてはいかん!!
…………罰として赤也は校庭を10周走って来い!!』




………………………





『ちぇ…………副部長の説教長いんだよ………』


ぶつくさと文句を言いつつ
仕方なく校庭を走る……………


『早く練習したいのによ〜〜〜!!!もどかしいぜ!!!』


………だいたい
また   朝みたいに  誰かに見られていたらかっこ悪い……

………サクサクっと10周終わらせよう!!

そう思い   更に    スピードを上げる………



テニスコートから

校舎の裏を通って体育館

更に走ると室内プール……………




走りながら  あの子の事を考える………

『アイツもこのプールで今頃  練習してんだろうな……』


……そう思うと自然に  力が湧いてきて
なんとなく踏み込む足にも力がこもる




『…………………??』





プール近くを走り去ろうとしていた  ちょうど   その時

近くで
走っている俺にも聞こえる程の…………泣き声が聞こえてきた



むしろ泣き叫んでいるぐらいの…………




『………オイオイ…………まさか……イジメか………??』



面倒ごとに巻き込まれたくはない…………けど……
…………………………なんとなく気になって   



走るのをやめて  声が聞こえた方に歩き出し

……静かに覗き込んでみた…………………………







………………………………そこに居たのは  あの子だった








『ーーーーーーー!!!おい!!どうした!?』




………俺は   つい反射的に  彼女の前に飛び出してしちまってた………



『あ………赤也くん…………???』


…プールに入った後なのか
水着に上着を着ただけの格好で

…………瞳に涙をいっぱいためながら……

必死に涙をこらえて  こちらを見ている…………




『……………格好悪い所………見られちゃった…ね…………』


『………格好悪くなんかねぇ………でも……どーしたんだ………??』



『………ゴメン…………何でもないから………気にしないで……』




………こんな姿を  一度も見た事がなかった
いつも笑ってて、優しくて…………………

だから…………




『……………何でも無いわけ…………ねーだろ!!!!!!』


『…………!?』



………俺は思わず ……大きな声をあげてしまった



『………………………あ………!?
わ…悪い!!!……ビックリしたよな……怒ってるわけじゃねーんだ!!』


『………………………ビックリした………』

『だから!!……本当に……悪かったって……!!!』


『……ううん………ビックリして涙止まっちゃった…………』



そう言うと……何もなかったかのように
赤い目のままだけど  恥ずかしそうに  少しだけ笑った
  


『あの………よ………余計なお世話かもしんねーけどよ………
俺で良かったら………話聞くぜ………??』




…………彼女は  少し  困ったように笑い…………
戸惑っているような仕草を見せたが
それでも  ゆっくりと話し始めてくれた………





『タイム………落ちたの…………』


『え………??』


『………私って……プレッシャーに弱いんだぁ………』

『…………プレッシャー………って……』


『…………大会前はいつもこう…………
プレッシャーで押しつぶされそうになって…………
みんなから期待されるのも………応援されるのも………私には………ただ…………辛いだけで…………』


『……………そんな……
その………俺も朝、そんな事言った…よな………悪かった』


『……ううん………私が悪いの……………でも……赤也君は凄いよね』

『へ!?………俺が??』

『いつも自信に溢れてて……楽しそうで………でも、しっかり結果も残してて………私も……赤也君みたいになりたい…………』

『……………俺は……誰にもテニスでは負けたくねーだけ……』


『………それがスゴい……よ……私には………できない……!!!
……………今日も……またタイムが落ちて……………』




『私は………赤也君みたいに期待してもらう価値なんて…ない……』




そう小さくつぶやくと……肩を抱いて小さく震え
うつむいて涙を堪える姿は


俺の知らない


……………きっと……この子の本当の姿………



いつも明るくて……笑顔で…………
………こんなにも…弱い一面があるなんて……考えもしなかった……






『お前は…無理して変わる必要ない……………』





『………………………………きゃっ……!!』



驚く彼女を………お構いなしに 抱きしめる

震える身体は   
すっぽり腕のなかに収まってしまうほど小さくて……弱い……




『辛くて泣いたっていい…………!!俺の前で無理すんなよ………!!俺…………俺は……』


『あ………あか、や………くん…………』


『こんな姿見てらんねーよ……………』


『………!!………〜〜〜!!!』



もう一度  強く抱きしめると
堪えていたものが一気に溢れだしたように俺の胸で泣き出した


その姿は………
なんだか………消えてしまいそうなほど儚くて



……………まるで
泡になって消えてしまう   あの人魚姫みたいだった……




『…………そんなに気負うことねーよ………
上手く言ってやれねーけど……すげー頑張ってんだろ?
だから悔しくて泣いてんだろ?………じゃあ、無理してもしょうがねぇじゃん……………結果なんか気にすんなよ……』


『でも……………でも……!!』

『………俺は……テニスが楽しい……
まぁ、負けられねーし……怒られて……めんどくせーって思うこともあるけどさ……でも……やっぱり楽しいんだよ!!
………………アンタもさ………水泳楽しめよ』


『………………楽しむ………??』


『アンタ頑張り過ぎ……………もっと気楽にいこーぜ!なッ!!』


俺は  わざとらしいくらい  笑って  おどけてみせると
抱いていた肩をポンポンと叩いた


さっきまで泣いていた彼女も  キョトンと
俺の目をじっと見つめて…………

少ししたら  クスッと笑った


『……………赤也くんの言うとおりだね………
私…………泳ぐことが嫌いになってた…………ちょっと無理してたみたい……』


『やっと……いつもみたいに笑ったな』


『………………赤也君………ホントにありがとう』


そう言って笑った顔は
…………いつもの俺の大好きな女の子の姿


その晴れやかな顔つきは
さっきまで泣いていたとは思えないほど綺麗だった



『練習に戻らなきゃ………赤也君も…練習中にゴメンね?』

『おう……無理すんなよ?』


『ふふ……私はもう大丈夫!なんかスッキリしちゃった…………
………………………それに………』


『ん??』



『…………………抱きしめてくれて嬉しかった……よ?』


『………………………!!!!』



照れ臭そうに笑って
彼女は小さく手を振って戻って行った



背中を見送りながら
………残された俺は  自分のした事を思い出して真っ赤になっていた











…………………………………………………………………………………








『10周にどれだけ時間がかかっているんだ!!!馬鹿者が!!』





……………結局

俺は  また  副部長に説教されて…………

テニスコートはいつもと変わらない練習風景




でも……

確かに  腕の中にいた あの子の感触が残っていて………




俺は……誰よりも  強くなってやろうと思った






………………………………………………………………




一人で泣いてた人魚姫

守ってあげられるのは…………俺だけ

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