[携帯モード] [URL送信]
図書室(柳)
図書室


 学校の片隅にある歴史あるその部屋は…
置かれている本だけじゃなく
私にとっては  とても  大切な場所


図書室



委員会の仕事は色々あるけれど、
私ほど同じ委員会を続けている人は珍しいらしい

図書委員会
私は今年から  この委員会の委員長に任命された
……理由は、誰よりも経歴が長いから、なんだけど…
 
よく  飽きずに同じ委員会が出来るね?

なんて  友達によく言われたけれど
私が  この仕事に飽きるハズなんてない。


…………だって   図書室にいれば彼に会えるから…。


柳  蓮二くん

我が校のテニス部有力選手の1人で成績も優秀……
立ち振る舞いにも  どこか気品があって…


……クラスも違うし  帰宅部の私なんかにはどうにも遠い存在だ……

でも……普段は遠い存在の彼も
図書室にくる時だけは 唯一同じ空間にいられる
だから私にとっては図書室は大切な場所…………





『一之瀬』

『こんにちは、柳くん!この本全部返却で良かったよね?』
『あぁ、すまないな…  頼む』
『ふふ、すまない=c なんて…これが……………』
『これが私の仕事だから気にしないで…………と言うんだろう?』
『………さすがマスターだね、柳くん』
『フ…………』


いつも  こんな  わずかなやり取りだけど…
委員会がキッカケで柳くんと話せるようになった

彼はかなり頻繁に図書室に来てくれるので、
話をする機会も随分増えた


………彼は  涼やかに笑うと
目的の本を探しに行ったのか  本棚の森に消えていった

私は  先ほど預かった本を棚に戻そうと
柳くんが返却した本を手に取り眺める
………どんなものを読んでいるんだろう…

心理学…
経済学…
………五輪書?テニスに使うのかな…
 
なんだか……難しそうな本ばっかりだなぁ……

あとは……………………ん?


『………恋愛小説…!?』


柳くんもこういうの読むのかな!?
それとも間違って借りたのかな…?
でも柳くんがこんなこと間違えるハズはないし………なぜ…


『なぜ、恋愛小説を借りたんだろう………と一之瀬は思っている』


『……!!柳くん!さっき本探しに行ったのに…いつの間に!?』

『本の陳列が変わっていたので、一之瀬に探すのを手伝ってもらおうと戻ってきたんだが』
『……そっか!!昨日新書が入って陳列が変わったんだけど…
……………何を探せばいい??』
『………コレだ』

柳くんがヒラリと見せてきた紙は
図書委員会で毎月発行している【本の森】という新聞だった

オススメの本や新書を紹介しているもので
………実は私が考案しているものだったりして…

彼はその中の一冊を指差している

『この新聞……柳くん読んでくれてるの??』
『あぁ、毎月必ず読んでいる』
『そうなんだ………嬉しいな……読んでくれてる人が居るなんて…』
『そんなに謙遜することはない
本の見所や作者の紹介……毎回  よく書けている』
『………えへへ……ありがとう……』
『さっき   一之瀬は、なんで俺が恋愛小説を借りたか気になっていた
ようだったな』
『うん………なんか意外だったから……』
『……先月  その本を薦めていただろう??』
『………そう言えば!!……それで読んでくれたの!?』
『あぁ、なかなかに面白かったぞ?普段はあまりこういうジャンルは読まないが………一之瀬の奨める本はハズレがないからな…
……………それに…』
『…………………………??』

『いいデータが取れた』

『データって……何かテニスの役に立つ事載ってた…?』
『いや……コレはお前に関するデータだ』
『……私!?私はテニスしないよ?』

『そんな事は知っている。一之瀬は典型的な文系……運動はあまり
好きではなく、体育は見学することもあるし……テニスは授業で数回した事がある程度だ』

『な!?なんで知ってるの!?私の情報調べても意味ないのに…』

『意味はある』

『…え……』

『俺は一之瀬のファンだからな』


『…………………えぇ!?』
『………声が大きいぞ………それより……本を探すのを手伝ってくれるんだろう?』

『………そ、そうだったね…えーっとこの本のジャンルだと……』
『助かる、すまないな』


…………………………………………


心臓がバクバクしている…
新聞も読んでくれていて…さらに
柳くんが私のファンだって言ってくれた…!!
嬉しすぎる!!…………一緒に本を探せるだけで幸せなのに……


………冷静を装いつつ2人で本を探す

明治から続くうちの図書室は
委員会をしていても把握しきれないほどの本がある

ちょうど入れ替えをして、棚の位置も変わったので
柳くんのような常連でも本が探せなくなってしまう



『あ!やっと見つけた!!柳くん!ここだよ!
……待っててね…んしょ……
もうちょっとで届く……………………わ!!』

『おっと』



………危うく本をぶちまけて落ちる所だった………けど
柳くんが後ろから支えてくれて無事だった

『危ないぞ…怪我をしたらどうする』
『ありがとう………助かりました………』

『こういう時は声を掛けてくれればいい。
…………俺なら台を使わなくても本が取れた』
『そうだね……ゴメンね、柳くん…』
『……………。』


台に乗った私の手と腰を
柳くんが後ろから支えてくれている………
背の高い柳くんの息が…、温度が…
台に乗っているのでいつもより近くに感じる……

『………一之瀬はいつも一生懸命だな』

『そ、そう?………いつも焦ってるだけだと思うけど…』

『俺は……お前のそういう所が…気に入っている』

『……え……』


スッと手が離される

『今日もまた貴重なデータが取れたな』

『………!』

『反応は悪くない……データによると……あと一押しか』


『……………えぇ!?』
『.......……..声…大きいぞ…』



……………………………………………………



彼は今日もこの図書室に会いにきてくれる

私にとって大切な場所…

今は2人にとって大切な場所。

[次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!